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笑わない娘
わらわないむすめ
作品ID51029
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 2」 講談社
1976(昭和51)年12月10日
初出「婦人之友」1921(大正10)年4月
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者江村秀之
公開 / 更新2013-12-15 / 2014-09-16
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 あるところに、なに不足なく育てられた少女がありました。ただ一人ぎりで、両親にはほかに子供もありませんでしたから、娘は生まれると大事に育てられたのであります。
 世間にも知られるほどの金持ちでありましたから、娘はりっぱな家に住み、食べ物から着る物まで、ほかの子供らには、とうていそのまねのできないほど、しあわせに日を送ることができたのであります。
 娘は大きくなると、それは美しゅうございました。目はぱっちりとして、髪の毛は黒く長く、色は白くて、この近隣に、これほど美しい娘はないといわれるほどでありましたから、両親の喜びは、たとえようがなかったのであります。
 けれど、ここに一つ両親の心を傷めることがありました。それは、こんなに美しい娘が、いつも黙って、沈んでいて、うれしそうな顔をして笑ったことがなかった。
「なぜ、あの子は笑わないだろう。」
「まんざらものをいわないこともないから、おしではないが、いったいどうした子だろう。」
 両親は、顔を見合わせて、うすうす我が子の身の上について心配しました。
 なにしろ、金はいくらもありますから、金でどうにかなることなら、なんでも買ってやって、娘の快活にものをいい、楽しむ有り様をば見たいものだと思いました。
 そこで、町へ人をやって、流行の美しい、目のさめるような華やかな着物や、また、飾りのついた人形など、なんでも娘の気に入りそうなものを、車にたくさん積んで持ってきて、娘の前にひろげてみせました。
 娘は、ただ一目それを見たぎりで、べつにほしいともうれしいともいわず、また、笑いもしませんでした。両親は、娘の心を悟ることができなかった。
「なにか、心から娘を喜ばせるような美しいものはないものか。いくら高くても金をば惜しまない。」と、両親は、人に話しました。
 そのことが、ちょうど旅から入り込んでいた、宝石屋の耳に、はいりました。すると宝石屋は、ひざを打って喜んで、これは、一もうけできると心で思いながら、その金持ちの家へやってきました。
「どんなに、気の沈んだお嬢さんでも、私の持ってきた、宝石をごらんになれば、こおどりしてお喜びなさるにちがいありません。それほど美しい、珍奇なものばかりです。」と、箱を前に置いていいました。
 両親は、娘さえ喜んで、笑い顔を見せてくれれば、いくらでも金を出すといって、さっそく娘をそこへ呼びました。
 しとやかに、娘は、そこに入ってきました。そして、両親のそばにすわりました。
「お嬢さん、これをごらんください。」といって、宝石屋は、箱のふたを開きました。すると、一時に、赤・青・緑・紫、さまざまの石から放った光が、みんなの目を射りました。
 両親はじめ、平常それらの石を扱いつけている男までが、目のくらみそうな思いがしましたのに、娘の顔は、びくともせずに、かえって、さげすむような目つきをして、冷ややか…

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