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神は弱いものを助けた
かみはよわいものをたすけた
作品ID51036
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 2」 講談社
1976(昭和51)年12月10日
初出「読売新聞」1920(大正9)年6月3~4日
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者江村秀之
公開 / 更新2013-11-09 / 2014-09-16
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より



 あるところに、きわめて仲の悪い百姓がありました。
 この仲の悪い甲と乙とは、なんとかして甲は乙を、乙は甲をうんとひどいめにあわしてやりたいと思っていました。けれど、なかなかそんなような機会はこなかったのであります。
 ある年の夏の日のことでありました。幾日も幾日も、天気ばかりがつづいて、雨というものがすこしも降りませんでした。そして、諸所方々の水が涸れてしまって、井戸の水までが日に日に少なくなるのでありました。
 甲の家の井戸は深くて、容易に水の尽きるようなことはありませんでしたけれど、乙の家の井戸はわりあいに浅くて、もう水が尽きるのに間もありませんでした。
 甲は、そのことを知るとたいへんに喜びました。乙の野郎め、水がなくなってしまったら、どうするだろう。水を飲まずに生きていられまい。そうすれば、きっとこの村からどこかへ逃げてゆくか、俺のところへ頭を下げて、お願いにくるにちがいないと思いました。
 乙は、だんだん井戸の水が少なくなるので、気が気でありませんでした。もしこの水がなくなってしまったら、どうしようと思いました。しかたがないから、どこかの清水のわき出るところを探さなければならないと思って、乙は、その日から毎日、近所の山のふもとの心あたりを探ねて歩きました。
 十五、六丁いった谷間に、一つの清水がありました。それが、この旱魃にも尽きず、滾々としてわき出ていました。これはいい清水を見つけたものだ。これさえあれば、もうだいじょうぶだと思って、乙は喜んで家へ帰りました。
 甲は、やはりその清水のあるところを知っていました。どうかして乙にわからなければいいがと思っていましたのが、どうやら乙の知ったらしいようすなので、がっかりしました。
 甲は、どうかして、その水を飲めなくしてしまうように苦心したのであります。けれど、いい考えが浮かびませんでした。そのうち、一つの考えが浮かびました。甲は馬を引いて町へ出かけてゆきました。



 甲は町でたくさんの油を買いました。それを馬に積んで帰ってきました。甲は金持ちでありましたから、もし金の力で乙をいじめることができたら、いくらでも金を使う考えであったのです。
 甲が馬に油だるをいくつも積んで帰ってくる姿を、乙は林の蔭でながめました。
「はてな、あんなにたくさんの油だるをなんで甲は仕入れてきたろう。」と、乙は考えました。
 乙は、それとなく悟りましたから、すぐに家に帰って、おけをかついで清水へゆきました。そして、日が暮れるまで、せっせと幾十たびとなく、我が家へ水をくんでは運びました。そして、たるの中へ水をいっぱい入れました。
 甲は日の暮れるのを待っていました。日が暮れると、馬を引いて清水の辺へゆきました。そして、たるの中の油をすっかり清水の付近へ流してしまいました。甲は家へ帰ると世間へ聞こえるような大きな声で…

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