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酔っぱらい星
よっぱらいぼし
作品ID51039
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 2」 講談社
1976(昭和51)年12月10日
初出「赤い鳥」1920(大正9)年1月
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者江村秀之
公開 / 更新2013-12-12 / 2014-09-16
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 佐吉が寝ていると、高窓の破れから、ちらちらと星の光がさしこみます。それは、青いガラスのようにさえた冬の空に輝いているのでありました。
 仰向けになって、じっとその星を見つめていますと、それが福々しいおじいさんの顔になって見えました。おじいさんは、頭に三角帽子をかぶっています。そして、やさしい、まるまるとした顔をして、こちらを見て笑っています。佐吉には、どうもこのおじいさんが、はじめて見た顔でないような気がするのでありました。
「どこで、このおじいさんを見たろう。」と、佐吉は考えながら、星を見上げていますと、さまざまの幻が目に映ってくるのでありました。
 去年の暮れのことでありました。佐吉が独り町を歩いていますと、いつもは寂しい町でありましたけれど、なにしろ年の暮れのことですから、人々が急がしそうに道をあるいていました。また、商店は、すこしでもよけいに品物を売ろうと思って、店先をきれいに飾って、いたるところで景気をつけていました。
 佐吉は、それらの有り様をながめながら歩いていますうちに、ある教会堂の前にさしかかったのです。ちょうどその日は、クリスマスのお祭りでありましたので、その教会堂の中はにぎやかでありました。ここばかりは、平生からだれがはいってもいいと聞いていましたので、佐吉は、おそるおそる入り口まで近寄ってその内をのぞいてみますと、そこには、子供や、大人がおおぜい集まっていました。いい音色のする音楽につれて、みんなは楽しそうに唄をうたっていました。そして、一本の脊の高い常磐木を中央に立てかけて、それには、金紙や、銀紙が結びつけてあり、また、いろいろの紅や、紫のおもちゃや、珍しい果物などがぶらさがっていました。
 また、そのそばには、大きな袋を下げた、おじいさんの人形が立っていました。そのおじいさんは、どこからか雪の中をさまよってきたものと見えて、わらぐつをはいていました。そして、脊中には、真綿の白い雪がかかっていました。なんでもおじいさんは、灰色のはてしない野原の方から、宝物を持ってやってきて、この町の子供らを喜ばせようとするのでありました。佐吉は、そのとき、そのやさしそうな、おじいさんの顔をなつかしげに見たのですが、どこか、星の中にいるおじいさんの顔が、それに似ているようでありました。
 また、これはあるときのことで、春であったと思います。佐吉は、一人家の外に遊んでいました。佐吉の家は貧乏でありましたから、ほかの子のように欲しい笛や、らっぱや、汽車などのおもちゃを買ってもらうことができなかったのです。
 それで、ぼんやりとして路の上に立っていますと、あちらから、いい小鳥のなき声が聞こえたのです。圃には、花が咲いていましたから、その花を訪ねて、山から小鳥が飛んできたのだろうと思って、いいなき声のする方を見向きますと、おじいさんが、たくさんの鳥かごをさ…

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