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葉と幹
はとみき
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 2」 講談社
1976(昭和51)年12月10日
初出「読売新聞」1920(大正9)年5月7~8日
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者江村秀之
公開 / 更新2013-11-30 / 2014-09-16
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



 ある山に一本のかえでの木がありました。もう長いことその山に生えていました。春になると、美しい若葉を出し、秋になるとみごとに紅葉しました。
 町から山に遊びにゆくものは、その木をほめないものはなかったのであります。
「なんといういいかえでの木だろう。」と、子供も年寄りも、みなほめたのであります。
 けれど、木はがけの辺に立っていましたので、みなは欲しいと思っても、取ることができませんでした。
 あるとき、そんなに人々がほめるのを、かえでの木は聞いたところから、幹と葉とがけんかをはじめました。
「こんなに評判になったのも、俺が幾年もの間、こんなにさびしい険しいところに我慢をして生長したからのことだ。俺の姿を見てくれい。雪のためには、ある年はおされて危うく折れそうになったこともあり、また、ある年の夏には、大雨に根を洗われて、もうすこしのことで、この地盤が崩れて、奈落の底に落ちるかと心配したこともある。いま、おまえがたが、踊ったり、跳ねたり、のんきに太陽に照らされて笑ったり、風に吹かれて唄をうたったりすることができるのも、だれのお蔭だと思うか。けっして俺のご恩を忘れてはならんぞ。」と、幹は、葉に向かっていいました。
 すると、木にしげっている葉はいいました。
「それは、一刻だって、あなたのご恩を忘れはいたしません。けれど私たちだって、ただ踊ったり、笑ったり、跳ねたりしているのではありません。いくらずつか、あなたのおためにもなっているのでございます。もし私たちがなかったら、やはりあなただって、そうしていつまでも達者に生きてはいられないのでございます。」
「そんなら、おまえたちは俺を守っているというのか。」と、幹は叫びました。
「さようでございます。」
「ばかばかしい。早く死んで失せろ。いくらでもおまえがたの代わりは生まれてくるわ。」と、幹は体を震わして怒ったのであります。



 ある日、くわをかついだ男と、もう一人の男とが、がけの上に立ちました。二人は、上を仰いで、かえでの木をながめていました。
「ここからは、とうてい上がれない。あちらからまわってゆかなければだめだ。」
と、二人はいっていました。
 これを聞いた葉はびっくりしました。
「あんまり私たちが美しいもので、とんだことになってしまいました。」
と、葉は幹にいいました。
「うぬぼれてはいけない。おまえたちぐらいの葉は、この山にざらにあるじゃないか。人間どもは、俺の姿を値打ちにしようと思っているのだ。」と、幹は葉を冷笑しました。
「しかし、私たちは、この山からどこへゆくのでしょう。もう海を見ることもできません。あちらの平野を見下ろすこともできません。たいへんなことになりました。」と、葉は気をもみはじめました。
「おまえたちのことを俺が知るものか。人間どもは俺を大事にするだろう。苦しいのもすこしの間だ。…

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