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白すみれとしいの木
しろすみれとしいのき
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 2」 講談社
1976(昭和51)年12月10日
初出「読売新聞」1920(大正9)年1月9~10日、12日
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者江村秀之
公開 / 更新2013-11-24 / 2014-09-16
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



 北の方のある村に、仲のよくない兄弟がありました。父親の死んだ後は兄は弟をば、むごたらしいまでに、いじめました。
 弟は、どちらかといえば、気のきかない、おんぼりとした質で、学校へ行っても、あまり物事をよく覚えませんでした。だから、兄は弟をば、つねにばか者扱いにしていたのであります。
 弟は気がやさしくて、けっして兄に対して手向かいなどをしたことがありません。いつも兄にいじめられて、しくしく泣いていました。
 冬の、ある寒い寒い晩のこと、格別弟が悪いことをしたのではないのに、兄は弟をいじめました。
「おまえみたいなばかは、こんな寒い晩に外に立っているがいい。そして、凍え死んだって、俺はおまえをかわいそうとは思わないぞ。」と、兄はののしりました。
 弟は、どうかそんなことはいわずに、家の中に置いてくれいと頼みますのを、兄は無理に弟を戸の外に出して、かぎをかけてしまいました。
 家の外は、野にも山にも雪が積もっていました。その晩は、めったにない寒さであって、空は青ガラスを張ったようにさえて、星晴れがしていました。また、皎々とした月が下界を照らしていました。
 弟は、雪の上に茫然としていますと、目から流れ出る涙までが凍ってしまうほどでありました。弟は、こんな不運なくらいなら、いっそ河にでも入って死んでしまったほうがいいと思いました。
 いつのまにか、寒さのために雪の上は堅く凍っていました。それは鋼鉄のように、飛び上がってもカンカンと響くばかりで、埋まることはありませんでした。
 弟は雪の上を渡って、河のある方へいきました。すると、河の水もまた鋼鉄のように凍っていたのであります。
 身を投げて死のうにも、水がないし、どうしたらいいだろうと思って、途方に暮れていますと、はるかかなたに、きばのようにとがった高い山が、月に照らされて見えるのでありました。
 昔から、あの山の下には、鬼が住んでいるといわれていました。



 弟は、どうせ死ぬなら、いっそ鬼にでも食われて死んでしまったほうがいいと思いました。それにしても、何十里あるかわかりませんでした。
 月光に照らされている、その遠い山影を望みますと、もし雪を渡ってまっすぐにいくことができたならそんなに遠くもないだろう。駆けて、駆けていったら、今夜の中にもいかれないことはないと思われました。
 弟は、そう思うと、雪の上をひた走りに走りはじめたのです。河も野もどこも平坦な白い畳を敷き詰めたようでありましたから、どんな近道もできるのでありました。
 彼は、駆けて、駆けて、駆けぬきました。そして疲れると、体から汗が出て、これほどの寒さもそんなに寒いとは思いませんでした。彼は、ところどころ休みました。そして行く手にそびえて見える高い山を仰ぎました。月の光が、かすかにその山を浮き出しているのでした。
 弟は、ほとんど自分でも…

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