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金銀小判
きんぎんこばん
作品ID51044
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 2」 講談社
1976(昭和51)年12月10日
初出「良友」1920(大正9)年1月
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者江村秀之
公開 / 更新2013-11-15 / 2014-09-16
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 独り者の幸作は、家の中に話し相手もなくその日を暮らしていました。北国は十二月にもなると、真っ白に雪が積もります。そのうちに、年の暮れがきまして、そこ、ここの家々では餅をつきはじめました。
 隣は地主でありまして、たくさん餅をつきました。幸作は、そのにぎやかな笑い声を聞きますと、どうかして自分も金持ちになりたいものだと空想したのであります。
 やがて、わずか日がたつとお正月になりました。けれど独り者の幸作のところへは、あまりたずねてくる客もなかったのです。結局そのほうが気楽なものですから、幸作は、こたつに入って寝ていました。
 外には雪がちらちらと降って、寒い風が吹いて、コトコトと窓の戸や、破れた壁板などを鳴らしていました。元日も、こうして無事に暮れてしまった夜のことであります。
「両替、両替、小判の両替。」と、呼んで歩く子供の声が聞こえたのであります。
 毎年この夜は、お宝船や、餅玉の木に結びつける小判をこうして売って歩くのでありました。
 けれど、この晩は雪が降っていましたから、いかにもその中をこうして呼んで歩いている子供の声が哀れに聞こえたのであります。
「両替、両替、小判の両替。」という声は、風のまにまに遠くになったり、近くになったりして聞こえてきたのであります。
 こうして、子供は呼んで歩きましたけれど、だれも買ってくれるような人がないとみえて、その声はとぎれなくつづいていました。どんなに外は寒かろうか? こたつにあたって寝ていました幸作は思いました。そして、子供はもう我慢がしきれなくなったとみえて、今度は、一軒一軒ごとに入って、
「小判を買ってください。」と、頼んでいるようでありました。
 おそらく、家の中には、人々は酒を飲んだり、かるたをとったり、また、いろいろなおもしろい話をして笑っているのだと思われました。しかし、だれもこの貧乏な子供に同情をしてくれるものがないとみえました。その子供は地主の家でも断られたとみえます。
 子供は、泣き出しそうな声をしながら、
「両替、両替、小判の両替。」といいながら、こっちに歩いてきました。やがて、幸作の家の戸口で、げたについた雪をはらう小さな足音がしました。
「今晩は、どうか小判を買ってください。」と、子供は、戸の外でいいました。
 幸作はかわいそうに思って、こたつから出て戸のそばにいきました。そして、戸を細めに開きますと、外は身を切るような寒い風が吹いて雪が降っています。まだ八つか九つになったばかりの子供が、真っ白の体をして、すすけたうす暗いちょうちんをさげていました。
「おおかわいそうに。」と思って、幸作は、小判の一包みを買ってやりました。
 子供は、幾たびもお礼をいって出ていきました。幸作は、せんべいで造った小判をねずみに食われてはつまらないと思って、それを戸だなの中にしまって、またこたつに入って、い…

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