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おおかみと人
おおかみとひと
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 2」 講談社
1976(昭和51)年12月10日
初出「こども雑誌」1920(大正9)年1月
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者雪森
公開 / 更新2013-05-16 / 2014-09-16
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 未開な小さな村がありました。町へいくには、山のすそ野を通らなければなりませんでした。その間はかなり遠く三里もありまして、その間には、一軒の人家すらなかったのであります。
 春から夏にかけては、まことに景色がようございましたけれども、秋の末から冬にかけては、まったくさびしゅうございました。けれど、その村の人は、町までいくには、どうしてもその高原を通らなければならなかったのです。
 この辺には、おおかみがときどき出て、人間を食ったことがあります。また、きつねが出て、人をばかしたこともあります。冬になって雪が降ると、人々は、一人でこの路を通ることをおそれました。
 村に猟人のおじいさんが住んでいました。このおじいさんは、長年猟人をしていまして、鉄砲を打つことの大名人でありました。どんな飛んでいる鳥も、走っているうさぎも、またくまや、おおかみのような猛獣も、たいてい的をつけたものは、そらさず一発で打ち止めるというほど上手でありました。
 このおじいさんが日ごろいっていますのには、
「くまや、おおかみのような猛獣は、かえってやさしい情けがあるもんだ。昔から人間が谷に落ちてくまに助けられたり、また路に迷って、おおかみにつれてきてもらったりした話があるが、それはほんとうのことだ。」といっていました。
 しかし、どのくまも、おおかみも、人間に害をしないというのではありません。そんな人を助けるというようなことは、じつにまれな話であります。山や、野や、谷に食べるものがなくなってしまうと、人間の村里を襲ってきます。そして、人間を食べたり、家畜を取ったりします。
 この村の人々も、雪が積もると、おおかみや、くまに襲われることをおそれました。けれど、上手な猟人のおじいさんが住んでいるので、みなは、どれほど安心していたかしれません。ある年の冬には、三頭のくまが村を襲ってきましたのを、おじいさんは一人で打ち止めてしまったからでありました。
 同じ村に、与助という才走った男が住んでいました。この男は、きわめて口先のうまい、他人の気をそらさぬので、みんなからりこう者の与助といわれていました。
 ある冬の一日、与助は村の人たちと町へ出ました。そして、彼一人は、酒を飲んで帰りがおくれてしまいました。その日は、いつになくいい天気でありましたうえに、まだ日もまったく暮れないから、泊まらないで急いで村に帰ろうと思って、いい気持ちで雪路を帰っていきました。
 彼は、高原を一人で通るのもそんなにさびしいとは思わなかったのです。真っ赤な夕日は、山に沈みかかって、ほんのりと余りの炎が雪の上を照らしていました。明日もまた天気とみえて雪の上はもはや幾分か堅くなって凍っています。その上を彼は、さくりさくりと朝きたときの路を歩いて、鼻唄をうたってきました。
 西の方の山々は、幾重にも遠く連なっていて、そのとがった巓…

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