えあ草紙・青空図書館 - 作品カード


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けしの圃
けしのはたけ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 2」 講談社
1976(昭和51)年12月10日
初出「赤い鳥」1920(大正9)年7月
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者江村秀之
公開 / 更新2013-11-18 / 2014-09-16
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 旅から旅へ渡って歩く、父と子の乞食がありました。父親は黙りがちに先に立って歩きます。後から十になった小太郎はついていきました。
 彼らは、いろいろの村を通りました。水車小屋があって、そこに、ギイコトン、ギイコトンといって、米をついているところもありました。また、青葉の間から旗が見えて、太鼓の音などが聞こえて春祭りのある村もありました。またあるところでは、同じ街道を曲馬師の一隊が、ぞろぞろと馬に荷物をつけて、女や男がおもしろそうな話をしながらいくのにも出あいました。そうかと思うと、さびしい細路を、二人は町の方へ急いでいることもありました。いまにも、降ってきそうな、灰色に曇った空を気にしながら、父親が大またに歩むのを、小太郎は小さな足で追いかけたのです。けれど小太郎は、こんなときにでも、圃の中に立っている梅の木の葉の間から、青い、青い梅がのぞいているのを見逃しませんでした。そして、そんな景色を見ると、なんということなく、悲しくなって、自分には、面影すら覚えのないお母さんのことなどが思い出されて涙が出るほどでありました。
「お父さん、私のお母さんは?」と、小太郎は父に聞きますと、
「おまえには、母親なんかないのだ。」と、父親は答えました。
「そんなら、私のお母さんは、死んでしまったの?」
「うるさいってことよ。ああ、そうだ。死んだんだよ。」と、父親はどなりました。
 子供は、付き場がなく、小さな胸をわななかせて黙ってしまうのでありました。
 村や、町を歩きまわって、たくさんお金をもらってきたときは、父親は機嫌がようございましたけれど、もし、少なかったときは、口先をとがらして、
「やい、この盲目め、これんばかり働いてきてどうするんだ。ここらあたりへ捨てていってしまうぞ。」とどなりました。そして、小太郎の差し出した手から、お金をひったくるように奪い取るのでありました。
 小太郎は、すが目でありました。自分にもあまり覚えのない時分に、どうして片方の目をつぶしてしまったのかわかりません。
 あるとき、こんなことがありました。それはなんでも北の方で、青い海の見える町でありました。町といっても家数の少ない小さなさびしい町で、魚問屋や、呉服屋や、荒物屋や、いろんな商店がありましたが、いちばん魚問屋が多くあって、町全体が魚臭い空気に包まれていました。その町の木賃宿に泊まったときに、父親は、子供を、知らぬ男と女の前に出して、なにかいっていました。
 その話は、よく小太郎にはわからなかったけれど、知らぬ男と女に、小太郎をくれてやるというような話らしかったのです。小太郎は、なんとなく心細くなって泣きたくなりました。そして、はたしてそれはほんとうに父がそう思っているのだろうかと振り向いて父親の顔をじっと見つめました。ちょうど、そのとき、知らぬ女が、
「だって、この子は入れ目じゃないかね…

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