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女の魚売り
おんなのさかなうり
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 2」 講談社
1976(昭和51)年12月10日
初出「赤い鳥」1922(大正11)年4月
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者江村秀之
公開 / 更新2013-11-06 / 2014-09-16
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 ある空の赤い、晩方のことであります。
 海の方から、若い女が、かごの中にたくさんのたいを入れて、てんびん棒でかついで村の中へはいってきました。
「たいは、いりませんか。たいを買ってください。」と、若い女はいって歩きました。
 この村に、一軒の金持ちが住んでいました。その家はすぎの木や、葉の色の黒ずんだ、かしの木などで取り囲まれていました。そして、その広い屋敷の周囲には、土手が築いてあって、その土手へは、だれも登れないように、とげのある、いろいろの木などが植えてありました。
 若い女の魚売りは、その屋敷についている門から、しんとした内へ入ってゆきました。
「たいを買ってください。」と、女はいいました。
 この家は、金持ちでありながら、たいへん吝薔であるということを、村では、みんな知らぬものがないくらいでした。
「どれ、たいを見せろ。」という声がすると、この家の主人が顔を出しました。
 女の魚売りは、かごを下に置いて、たいを主人に見せました。林の間をとおして、西の空の赤い色が見られたのです。その空の色に負けずに、たいの色は紅くあったのでした。
「このたいは、新しいか。」と、この家の主人は聞きました。
「新しいにも、なんにも、もうすこし前まで、かごの中で、ぴんぴんはねていたのです。」と、女は、主人の顔を見上げて答えました。
「なに、昨日捕れたのだろう。」と、主人は冷笑いながらいいました。すると、女は、ほおをすこし赤くしながら、
「まだ、生きています。」と答えました。
 主人は、じっと、かごの中のたいをながめていました。ほんとうに、たいのうろこは、一つ一つ、紅い貝がらのように、ぬれて光っています。目は、真っ黒に、なんでも見えるように澄んでいました。
「なにっ、生きているって。こんなに、じっとして動かないものが、生きているはずがない。死んでいるものを、生きているなんてうそをつくな。」と、主人はいいました。
「ほんとうに、海から、上がったばかりなのですから、どうか買ってください。」
「こんな古い魚は、うんと安くまければ買ってやるが、それでなければいらない。」と、主人はいいました。
「まだ、これで生きています。海の水に入れば、泳いではねます。どうかそういわないで買ってください。」
「もし、この魚が生きていたら、みんな買ってやる。もし、この魚が死んでいたら、みんなおれに、ただでくれるか。」と、主人はいいました。
「ほんとうに、生きていましたら、これをみんな買ってくださいますか。」と、女はたずねました。
「ああ、これだけのたいの金を払ってやる。そのかわり死んでいたら、みんなこのたいをただでくれるか。」と、女の魚売りに向かって念を押しました。
「お金はいりません。みんなさしあげます。」と、女は答えました。
 主人は、かごの中から、一ぴきのたいをつまみあげて、宙にぶらさげました…

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