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つばきの下のすみれ
つばきのしたのすみれ
作品ID51052
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 2」 講談社
1976(昭和51)年12月10日
初出「小学少女」1922(大正11)年4月
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者江村秀之
公開 / 更新2013-11-24 / 2014-09-16
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 一本のつばきの木の下に、かわいらしいすみれがありました。そのつばきの木は、大きかったばかりでなくて、それは真紅な美しい花を開きました。この花を見た人は、だれでも、きれいなのをほめないものはなかったほどであります。
「まあ、なんというみごとな花だろう。」といって、みんなは、そのつばきの木の周囲をまわり、火のもえたつような花に見とれました。
 すみれは、やはり、そのころ、紫色のかわいらしい花を咲いたのです。しかし、この大きなみごとなつばきの木の下にあっては、人の目に入るにはあまりに小さかった。あわれなすみれは、それで、心なしに歩く人々から、頭をふまれたのです。
 せっかく、春に遇うて、これからはなやかな、暖かい太陽の光を浴びて、ちょうや、みつばちの歌を聞いて、楽しい日を送ろうと思っているまもなく、花も、葉も、ふみにじられて、見る影もなくなってしまいました。
 それは、すみれにとって、どんなに悲しいことでありましたでしょう。つぎの年も、またつばきの木には、真紅な大きな花が、たくさんに咲きました。人々は、みなその近くに寄って、これをながめて、
「なんという美しい花だろう。」といって、ほめないものはなかったのです。ちょうど、そのとき、すみれがやっと、小さなつぼみを破って紫色の花を開いたのです。
「ああ、なんという私は不幸なものだろう。だれも、私に目をとめてくれるものがない。またじきに、だれかにふまれてしまう運命であろう。」と、わなわなと、身を震わしていました。
 すると、この家に、竹子さんというやさしい少女がありました。やはり、裏の庭に出て遊んでいましたが、ひとり、竹子さんだけは、星のようなすんだ、うるおいのある瞳を、つばきの木の下のすみれの上にとめました。
「ここに、すみれがあってよ。あたしは、すみれが大好きなの。こんなところにあっては、みんなに踏まれてしまうわ。」といって、はじめて竹子さんは、すみれに注意してくれました。
 すみれは、どんなにうれしく思ったでしょう。心の中で、ほんとうにお嬢さんに見つけられなければ、また人に踏まれてしまうか鶏につつかれて、芽を出したかいもなく、見る影もなくなってしまうものだと思いました。
「あたしは、すみれを鉢に移してやりましょう。」と、竹子さんはいって、すみれをば地面から離して、素焼きの鉢の中に移しました。すみれは、自分の生まれ出た地面から離されることは、たいそう悲しゅうございました。もう二度と太陽の光は見られないんでなかろうか、そして、あの夜々に、大空に輝く大好きな星の光を望むことができないのでなかろうかと、愁いましたが、また、やさしいお嬢さまのなさることだと、安心をしていました。
 竹子さんは、すみれの植わった鉢を、自分の勉強する机のそばに持ってきました。すみれはそこで、目ざまし時計や、きれいな表紙のついている雑誌や、筆立て…

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