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花と人の話
はなとひとのはなし
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 2」 講談社
1976(昭和51)年12月10日
初出「少女の花」1923(大正12)年1月
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者江村秀之
公開 / 更新2013-12-03 / 2014-09-16
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 真紅なアネモネが、花屋の店に並べられてありました。同じ土から生まれ出た、この花は、いわば兄弟ともいうようなものでありました。そして、大空からもれる春の日の光を受けていましたが、いつまでもひとところに、いっしょにいられる身の上ではなかったのです。
 やがて、たがいにはなればなれになって、別れてしまわなければならなかった。そして、たがいの身の上を知ることもなく、永久にふたたびあうことは、おそらくなかったのであります。甲のアネモネの鉢は、赤い色の素焼きでした。乙のアネモネの植わっている鉢も、やはり同じ色をしていました。丙のアネモネの鉢は、黒い色の素焼きでありました。この三つの鉢は並んでいました。そして、あたりは静かであって、ただ、遠い街の角を曲がる荷車のわだちの音が、夢のように流れて聞こえてくるばかりであります。
 このとき、甲のアネモネは、
「いまにも、だれかきて、私たちを買っていってしまうかもしれない。なんと私たちは、はかない運命でしょう。私は、あの黒い、広い、圃がなつかしい。昔、みんなして、あの圃の中に生まれて顔を出したあの時分が、いちばん楽しかったと思います。」といいました。
「ほんとうに、あの時分が、いちばん楽しかったですね。風は寒かったけれど、朝晩、日の光は、弱く、悲しかったけれど、そして夜には、霜が降って、私たちを悩ましたけれど、やはり、あの時分がいちばんよかったように思います。」と、丙のアネモネがいいました。
 二つのアネモネの話を黙って聞いていた、乙のアネモネは、顔を上げて、
「私たちは、どこへゆくでしょう。どうかかわいがってくれる人の手に渡りたいものですね。おそらく、いっしょにはいられないでしょう。たとえ、もう二度と顔が見られなくても、おたがいにしあわせであればいいのです。けれど、みんなが同じようにしあわせであることはできないでありましょう。」といいました。
 そのうちに、人の足音がしました。三つのアネモネは黙ってしまいました。なんとなくおそろしいような、また気づかわれるような気持ちがしたからです。それは、美しい令嬢たちでありました。ぜいたくなようすをしていました三人の令嬢は、店さきに立って、そこにあるいろいろな花の上に、清らかなりこうそうな瞳を移していました。
「あのリリーもいいことよ。」
 一人の令嬢が、こういいますと、ほかの一人は、
「わたし、カーネーションが好きよ。」と、片すみにあった淡紅色の花を目指していいました。
「アネモネにしましょうね、いま咲きかかったばかりなのですもの。」と、三人の令嬢の中のいちばん年上のがいいました。
 すると、ほかの二人は妹たちでありましょう。みんなその姉さんのいうことに従いました。アネモネは、たがいに、心の中で、このやさしい令嬢たちの手に渡ることを願っていました。どんなにやさしく取り扱われ、またかわいが…

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