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雪だるま
ゆきだるま
作品ID51058
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 2」 講談社
1976(昭和51)年12月10日
初出「小学少年」1923(大正12)年1月
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者江村秀之
公開 / 更新2013-12-12 / 2014-09-16
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 いいお天気でありました。もはや、野にも山にも、雪が一面に真っ白くつもってかがやいています。ちょうど、その日は学校が休みでありましたから、次郎は、家の外に出て、となりの勇吉といっしょになって、遊んでいました。
「大きな、雪だるまを一つつくろうね。」
 二人は、こういって、いっしょうけんめいに雪を一処にあつめて、雪だるまをつくりはじめました。
 そこは、人通りのない、家の前の圃の中でありました。梅の木も、かきの木も、すでに二、三尺も根もとのほうは雪にうずもれていました。そして、わらぐつをはきさえすれば、子供たちは圃の上を自由に、どこへでもゆくことができたのであります。
 頭の上の空は、青々として、ちょうどガラスをふいたようにさえていました。あちらこちらには、たこがあがって、籐の鳴り音が聞こえていました。けれど、二人は、そんなことにわき見もせずに、せっせと雪を運んでは、だるまをつくっていました。昼前かかって、やっと半分ばかりしかできませんでした。
「昼飯を食べてから、またあとを造ろうね。」
 二人は、こういって、昼飯を食べに、おのおのの家へ帰りました。そして、やがてまた二人は、そこにやってきて、せっせと、雪だるまを造っていました。
 ほんとうに、その日は、いい天気でありましたから、小鳥も木の枝にきて鳴いていました。しかし、冬の日は短くて、じきに日は暮れかかりました。西の方の空は、赤くそまって、一面に雪の上はかげってしまいました。その時分にやっと、二人の雪だるまは、みごとにできあがったのであります。
「やあ、大きいだるまだなあ。」といって、二人は、自分たちのつくった、雪だるまを目をかがやかして賞歎しました。次郎は、墨でだるまの目と鼻と口とをえがきました。だるまは、往来の方を向いてすわっていました。二人は、明日から、この路を通る人たちがこれを見て、どんなにかびっくりするだろうと思って喜びました。
「きっと、みんながびっくりするよ。」と、勇吉はいって、こおどりしました。そして、懐の中から自分のハーモニカを取り出して、だるまの口に押しつけました。ちょうど、だるまが夕陽の中に赤くいろどられて、ハーモニカを吹いているように見えたのであります。
 空の色は、だんだん冷たく、暗くなりました。そして、雪の上をわたって吹いてくる風が、身にしみて寒さを感じさせました。
「もう、家へ帰ろう。そして、また、明日ここへきて遊ぼうよ。」こういって、その日の名残をおしみながら、別れて、二人は自分の家へ入ってゆきました。あとには、ただひとり大きな雪だるまが、円い目をみはって、あちらをながめていました。
 次郎は、夕飯を食べるとじきに床の中に入りました。そして、いつのまにかぐっすりと眠ってしまいました。ちょうど、夜中時分でありました。そばにねていられたおばあさんが、いつものように、
「次郎や、小便…

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