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天下一品
てんかいっぴん
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 2」 講談社
1976(昭和51)年12月10日
初出「北國新聞」大正11年1月1~2日
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者江村秀之
公開 / 更新2013-11-27 / 2014-09-16
長さの目安約 14 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 ある日のことであります。男は空想にふけりました。
「ほんとうに、毎日働いても、つまらない話だ。大金持ちになれはしないし、また、これという安楽もされない。ばかばかしいことだ。よく世間には、小判の入った大瓶を掘り出したといううわさがあるが、俺も、なにかそんなようなものでも掘り出さなければ、大金持ちとはならないだろう。」と、その男は、いろいろなことを、仰向いて考えていました。
 すると、たなの上に乗っていた、古い仏像に目が止まりました。昔から、家にあったので、こうしてたなの上に乗せておいたのです。仏壇の中には、あまり大きすぎて入らなかったからであります。
「あの仏像が、金であったら、たいへんな値打ちのものだろうが、どうせそんなものでないにはきまっている。それに手が欠けていて、どのみち、たいした代物ではない。しかし、あの仏像がいいものであって、値が高く売れたら、どんなにしあわせだろう。俺は、たくさんの田地を買うし、また、諸国を見物にも出かけるし、りっぱな着物も造ることができるだろう。」と、男は、黒くすすけた仏像を見ながら考えこんでいました。
 家の外には、もうすずめがきて餌を拾って鳴いていました。いつもなら、男は、くわをかついで圃に出なければならない時刻でありましたが、なんだか働くということがばかばかしくなって、その気になれませんでした。
 男は、立ち上がって、たなの上からその仏像を取り下ろして、つくづくとながめていました。ほんとうに、手に取ってこうしてながめるというようなことは、幾年の間、いままでになかったのです。また、見れば見るほど、それがいいもののようにも思われてきました。
 もうこの世にいない父親が、あるとき、旅のものからこの仏像を買ったということを聞いていました。
「こりゃ、いいものではないかしらん。」と、彼は、ますます考えはじめました。
 村に、なんの職業ということもきまらずに、日を送っているりこう者がありました。村の人々は、その人をりこう者といっていました。この人に聞けば、役所の届けのことも、また書画の鑑定も、ちょっとした法律上のこともわかりましたので、村の中の物識りということになっていました。しかし、その人は、あまりいい生活をしていませんでした。地所の売買や、訴訟の代理人などになって出て、そんなことで報酬を得て、その一家のものは暮らしていたのですが、物識りという名が通っているので、このもののいったことは、村では、たいていほんとうにしていたのです。
「あの物識りのところへ持っていって、見てもらおうかしらん。どうせつまらないものでも、もともとだ、万一いい代物であったら思わぬもうけものだ。人間の運というものは、どういうところにないともかぎらないから……。」と、男は、ほこりだらけの仏像をひねくりながら考えていました。
 やがて、男は、それをふろしきに包みま…

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