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百姓の夢
ひゃくしょうのゆめ
作品ID51061
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 2」 講談社
1976(昭和51)年12月10日
初出「女性日本人 4巻1号」1923(大正12)年1月
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者江村秀之
公開 / 更新2013-12-03 / 2014-09-16
長さの目安約 15 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 あるところに、牛を持っている百姓がありました。その牛は、もう年をとっていました。長い年の間、その百姓のために重い荷をつけて働いたのであります。そして、いまでも、なお働いていたのであったけれど、なんにしても、年をとってしまっては、ちょうど人間と同じように、若い時分ほど働くことはできなかったのです。
 この無理もないことを、百姓はあわれとは思いませんでした。そして、いままで自分たちのために働いてくれた牛を、大事にしてやろうとは思わなかったのであります。
「こんな役にたたないやつは、早く、どこかへやってしまって、若いじょうぶな牛と換えよう。」と思いました。
 秋の収穫もすんでしまうと、来年の春まで、地面は、雪や、霜のために堅く凍ってしまいますので、牛を小舎の中に入れておいて、休ましてやらなければなりません。この百姓は、せめて牛をそうして、春まで休ませてやろうともせずに、
「冬の間こんな役にたたないやつを、食べさしておくのはむだな話だ。」といって、たとえ、ものこそいわないけれど、なんでもよく人間の感情はわかるものを、このおとなしい牛をひどいめにあわせたのであります。
 ある、うす寒い日のこと、百姓は、話に、馬の市が四里ばかり離れた、小さな町で開かれたということを聞いたので、喜んで、小舎の中から、年とった牛を引き出して、若い牛と交換してくるために町へと出かけたのでした。
 百姓は、自分たちといっしょに苦労をした、この年をとった牛に分かれるのを、格別悲しいとも感じなかったのであるが、牛は、さもこの家から離れてゆくのが悲しそうに見えて、なんとなく、歩く足つきも鈍かったのでありました。
 昼過ぎごろ、百姓はその町に着きました。そして、すぐにその市の立っているところへ、牛を引いていきました。すると、そこには、自分の欲しいと思う若い馬や、強そうな牛が幾種類となくたくさんにつながれていました。方々から百姓たちが、ここへ押し寄せてきていました。中には、脊の高いりっぱな馬を買って、喜んで引いてゆく男もありました。彼は、うらやましそうに、その男の後ろ姿を見送ったのです。
 自分は、馬にしようか、牛にしようかとまどいましたが、しまいには、この連れてきた年とった牛に、あまりたくさんの金を打たなくて交換できるなら、牛でも、馬でも、どちらでもいいと思ったのでした。
 あちらにいったり、こちらにきたりして、自分の気にいった馬や、牛があると、その値段を百姓は聞いていました。そして、
「高いなあ、とても俺には買われねえ。」と、彼は、頭をかしげていったりしました。
「おまえさん、よくいままで、こんな年をとった牛を持っていなさったものだ。だれも、こんな牛に、いくらおまえさんが金をつけたって喜んで交換するものはあるめえ。」と、黄銅のきせるをくわえて、すぱすぱたばこをすいながら、さげすむようにいった博労も…

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