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びっこのお馬
びっこのおうま |
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作品ID | 51068 |
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著者 | 小川 未明 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「定本小川未明童話全集 3」 講談社 1977(昭和52)年1月10日 |
初出 | 「童話」1922(大正11)年5月 |
入力者 | ぷろぼの青空工作員チーム入力班 |
校正者 | 本読み小僧 |
公開 / 更新 | 2014-05-28 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 8 ページ(500字/頁で計算) |
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二郎は、ある日、外に立っていますと、びっこの馬が、重い荷を背中につけて、引かれていくのでありました。
二郎は、その馬を見て、かわいそうに思いました。どんなに不自由だろう。そう思うと、達者な馬は、威勢よく、はやく歩いていくのに、びっこの馬はそれに負けまいとして、汗を流していっしょうけんめいに歩いているけれど、どうしてもおくれがちになるのでありました。
「このびっこめ、はやく歩け……。」と、その馬を引いている親方は、ピシリ、ピシリとこの馬のしりを打つのでした。
二郎は、ぼんやりと立って、それを見送っていますと、やがて、往来をあちらの方へと、遠ざかっていったのであります。二郎は、まだ六つになったばかりでした。
家に入ってから、兄さんや、姉さんに、今日、あちらの道をかわいそうなびっこの馬が通ったことを話しました。しかし、兄さんも、姉さんも、自分たちは、それを見なかったから、
「二郎ちゃんは、なにを見たんだか……。」といって、笑っていました。
二郎は、自分の見た、悲しい、哀れな馬について、よく兄や、姉にわからせたいと、いろいろにあせって、どもりながら、訴えましたけれど、相手にしてくれないので、
「そんなら、あしたの晩方、外に出ていてごらん、きっと、あの馬が通るだろうから……。」と、二郎は、兄さんや姉さんにいいました。
「ああ、通ったら、知らしておくれ。」と、兄さんや、姉さんは答えました。
二郎は、あくる日の晩方、友だちらが外に出て、鬼ごっこをしたり、独楽をまわしたりして遊んでいる時分に、独り、みんなから離れて、ぼんやりと往来の上に立って、通る馬や、車をながめていました。また、昨日のびっこの馬が通るかと思ったからです。
二郎の立っている前を通る車や、馬は、黄色なほこりをたててゆきました。ほこりは、これらの馬や車がいってしまった後でも、なお空中にただよっていましたが、ついに昨日のびっこの馬は通りませんでした。
「二郎ちゃん、びっこの馬は通った?」と、家に入ったときに、兄さんや、姉さんは、二郎に問いました。二郎は、さびしそうに頭を左右に振りました。しかし、たとえ、今日、この道を通らなくとも、どこかの往来の上を、今日もまたあのびっこの馬は通るであろうと、二郎は子供心ながらにも想像されたのです。そして、そのいじらしい姿を思うと、二郎は、哀れになって涙ぐまれたのであります。
二郎は、自分の机のひきだしの中に、色紙と、はさみとを持っていました。彼は、それを取り出してきて、びっこの青い馬を切り抜いたのでした。
その紙の馬は、よくようすが、あのとき見た、びっこの馬に似ているように、自分に思われました。
彼は、その馬を立つように工夫しました。そして、それを机の上にのせてみては、いろいろと空想にふけっていたのであります。
「かわいそうな馬が、こうして、今日も、どこかの道…