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あほう鳥の鳴く日
あほうどりのなくひ
作品ID51078
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 3」 講談社
1977(昭和52)年1月10日
初出「童話」1923(大正12)年9月
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者本読み小僧
公開 / 更新2012-11-24 / 2014-09-16
長さの目安約 16 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 若者は、小さいときから、両親のもとを離れました。そして諸所を流れ歩いていろいろな生活を送っていました。もはや、幾年も自分の生まれた故郷へは帰りませんでした。たとえ、それを思い出して、なつかしいと思っても、ただ生活のまにまに、その日その日を送らなければならなかったのであります。
 もう、十七、八になりましたときに、彼は、ある南方の工場で働いていました。しかし、だれでもいつも健康で気持ちよく、暮らされるものではありません。この若者も病気にかかりました。
 病気にかかって、いままでのように、よく働けなくなると、工場では、この若者に、金を払って雇っておくことを心よく思いませんでした。そしてとうとうある日のこと、若者に暇をやって工場から出してしまったのです。
 べつに、頼るところのない若者は、やはり自ら、勤める口を探さなければなりませんでした。
 彼は、それからというものは毎日、あてもなく、あちらの町こちらの町とさまよって、職を求めて歩いていました。
 空の色のうす紅い、晩方のことでありました。彼は、疲れた足をひきずりながら、町の中を歩いてきますと、あちらに人がたかっていました。
 何事があるのだろう? と思って、若者はその人だかりのしているそばにいってみますと、汚らしい少年をみんながとりかこんでいるのであります。
「さあ、赤い鳥を呼んでみせろ。」と、一人がいいますと、また、あちらから、
「さあ、白い鳥を呼んでみせろ!」とどなりました。
 汚らしいふうをした子供は黙って立っていました。
「どんな鳥でも呼んでみせるなんて、おまえは、うそをつくのだろう? なんで、そんなことがおまえにできてたまるものか!」と、人々は口々にいって冷笑いました。
 すると髪の毛の伸びた、顔色の黒い、目の落ちくぼんだ子供は、じろじろとみんなの顔を見まわしました。
「私は、けっして、うそをつきません。山にいて、いろいろほかの人間のできないことを修業しました。ほんとうに、みなさんが赤い鳥が呼んでほしいならば、どうか、私に、今夜泊まるだけの金をください。私は、すぐに呼んでみせましょう。」といいました。
 群衆の中には、酒に酔った男がいました。
「ああ、呼んでみせろ! もし、おまえが呼んでみせたら、いくらでも、ほしいほどの金をやるから。」といいました。
 子供は、うなずいて、空を仰ぎました。雲はちぎれちぎれに高らかに飛んでいました。そして、日がまったく暮れてしまうのには、まだ間があったのです。
 たちまち、鋭い口笛のひびきが子供の唇から起こりました。子供は、指を曲げてそれを口にあてると、息のつづくかぎり、吹きならしたのであります。
 このとき、紅みがかった、西の空のかなたから、一点の黒い小さな影が雲をかすめて見えました。やがて、その黒い点は、だんだん大きくなって、みんなの頭の上の空に飛んできたのです。…

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