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長ぐつの話
ながぐつのはなし
作品ID51086
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 3」 講談社
1977(昭和52)年1月10日
初出「時事新報」1923(大正12)年8月26日
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者本読み小僧
公開 / 更新2014-05-22 / 2014-09-16
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 あるところに、かわいそうな乞食の子がありました。
 さびしい村の方から、毎日、町の方へ、ものをもらいに追い出されました。けれど、小さな足には、なにもはくものがなかったのです。子供は跣足で、長い石ころの多い道を、とぼとぼと歩かなければならなかったのでした。
 夏の暑い日のことであります。地の面は乾いて、石は、熱く焼けていました。しかし子供は、足になにもはくものがなかったので、その上を跣足で歩いていました。通りすがりの人たちは、このかわいそうな乞食の子を見ましても、やさしい声ひとつ、かけてくれるものはありませんでした。
 乞食の子は、きたならしいふうをして、だれも通らない、日盛りごろを往来の上を歩いていたのです。すると、頭の上で、つばめが鳴いていました。電信柱が往来に沿って、あちらまで遠くつづいていました。そして、その先は、青い、青い、空の下に見えなくなっていました。
 その柱と柱の間には、幾筋かの電線がつながっていました。そして、その細い電線は日にさらされて光っていました。
 つばめは、幾羽となく並んで、電線に止まっています。そして、鳴いていました。乞食の子は、ふと思わず立ち止まって上を仰ぎますと、つばめは、みんな自分を見て鳴いていましたので、これは、鳥までが、自分をばかにするのかと腹をたてました。
 子供は、足もとの小石を拾って、鳥らに向かって投げました。つばめは、驚いて、みんな一時に飛び立ちました。子供は、しばらくたたずんで、つばめの飛び立つ方をながめていました。
 翌日も、また熱い日でありました。子供がちょうど、昨日石を拾って投げつけたところにきますと、またもつばめがたくさん電線の上に止まって、鳴いていました。今度は、すこし道から離れた田の上で鳴いていました。ちょうどその下には汽車の線路があって、土手がつづいていました。土手は、ここでは往来に接していましたが、やがて道から遠く離れて、あちらへいっていたのです。
 子供は石を拾って、わざわざ線路の方まで、田のあぜ道を伝わってゆきました。そして、石をつばめに向かって投げようと思ったのです。
 けれど、子供は、つばめの鳴いているのは、自分をばかにして鳴くのでないということを心に感じました。
 その声は、なにかしきりに、自分に向かって、告げようとしているようです。子供は、つばめが止まっている、下の線路のそばを見ました。すると、そこには、はき古した、ぼろぼろに破れた長ぐつが一足捨ててありました。
 子供は、「これだ! つばめが、俺に、くつの落ちていることを知らしてくれたのだ。」と、深く心に感謝しました。
 子供は、さっそく、その長ぐつを拾ってはいたのであります。それは、多分、工夫かだれかがはいて、もう古くなって破れたので捨てたものと思われます。
 大人の足にはいた、長ぐつでありましたから、乞食の子供がはくと、足の…

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