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黒い人と赤いそり
くろいひととあかいそり
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 3」 講談社
1977(昭和52)年1月10日
初出「赤い鳥」1922(大正11)年1月
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者本読み小僧
公開 / 更新2012-12-17 / 2014-09-16
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 はるか、北の方の国にあった、不思議な話であります。
 ある日のこと、その国の男の人たちが氷の上で、なにか忙しそうに働いていました。冬になると、海の上までが一面に氷で張りつめられてしまうのでした。だから、どんなに寒いかということも想像されるでありましょう。
 夜になると、地球の北のはてであったから、空までが、頭の上に近く迫って見えて、星の輝きまでが、ほかのところから見るよりは、ずっと光も強く、大きく見えるのでありました。その星の光が寒い晩には凍って、青い空の下に、幾筋かの銀の棒のように、にじんでいるのが見られたのです。木立は音を立てて凍て割れますし、海の水は、いつのまにか、動かなくとぎすました鉄のように凍ってしまったのであります。
 そんなに、寒い国でありましたから、みんなは、黒い獣の毛皮を着て、働いていました。ちょうど、そのとき、海の上は曇って、あちらは灰色にどんよりとしていました。
 すると、たちまち足もとの厚い氷が二つに割れました。こんなことは、めったにあるものでありません。みんなは、たまげた顔つきをして、足もとを見つめていますと、その割れ目は、ますます深く、暗く、見るまに口が大きくなりました。
「あれ!」と、沖の方に残されていた、三人のものは声をあげましたが、もはやおよびもつかなかったのです。その割れ目は、飛び越すことも、また、橋を渡すこともできないほど隔たりができて、しかも急流に押し流されるように、沖の方方へだんだんと走っていってしまったのであります。
 三人は、手を挙げて、声をかぎりに叫んで、救いを求めました。陸の方に近い氷の上に立っているおおぜいの人々は、ただ、それを見送るばかりで、どうすることもできませんでした。
 たがいにわけのわからぬことをいって、まごまごしているばかりです。そのうちに、三人を乗せた氷は、灰色にかすんだ沖の方へ、ぐんぐんと流されていってしまいました。みんなは、ぼんやりと沖の方を向いているばかりで、どうすることもできません。そのうちに、三人の姿は、ついに見えなくなってしまいました。
 あとで、みんな大騒ぎをしました。氷がとつぜん二つに割れて、しかもそれが、箭を射るように沖の方へ流れていってしまうことは、めったにあるものでない。こんな不思議なことは、見たことがない。それにしても、あの氷といっしょに流されてどこかへいってしまった三人を、どうしたらいいものだろうと話し合いました。
「いまさらどうしようもない。この冬の海に船を出されるものでなし、後を追うこともできないではないか。」と、あるものは、絶望しながらいいました。
 みんなは、うなずきました。
「ほんとうにしかたがないことだ。」といいました。しかし、五人のものだけが頭を振りました。
「このまま仲間を、見殺しにすることができるものでない。どんなことをしても、救わなければならない…

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