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駄馬と百姓
だばとひゃくしょう
作品ID51092
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 3」 講談社
1977(昭和52)年1月10日
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者江村秀之
公開 / 更新2014-02-24 / 2014-09-16
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 甲の百姓は、一ぴきの馬を持っていました。この馬は脊が低く、足が太くて、まことに見たところは醜い馬でありましたが、よく主人のいうことを聞いて、その手助けもやりますし、どんな重い荷物をつけた車でも引き、また、あるときは脊の上に荷物を積んで歩いたのであります。
 他の馬は、よく主人の意にさからったということを聞きますけれど、この馬にかぎって、けっして、そんなことはなく、汗を流してよく働きました。それがために、甲の百姓は、どれだけ利益を得ていたかわかりません。
「さあ、もうすこしだ。我慢をして歩けよ。」と、主人は疲れた馬に向かっていいました。
 馬は、うなだれて、黙って重い車を引いていました。また、あるときは、主人は、
「さあ、もう一つ先の茶屋までいったら休ませてやるぞ。そして、おまえにも餌を食べさせてやる。」といいました。
 馬は、その言葉に力を得て、いっしょうけんめいで車を引いてゆきました。そして、やがてその茶屋に着きますと、百姓は、茶屋の中へ入って休みました。自分は茶を飲んだり、お菓子を食べたりしましたけれど、外に疲れて、汗を流して立っている馬にはかまいませんでした。
 百姓は、自分の疲れがなおると、また馬の手綱をとって引いてゆきました。彼は、先刻馬に向かって約束をしたことなど、すっかり忘れていたのです。
 馬は、心の中で、どう思ったかしらないけれど、主人のいうがままにおとなしく働いていました。
「こんな醜い馬だけれど、こうして、よく働いているから、まあ飼っておくのだ。」と、甲の百姓は、自分にもそう思い、また、人に向かっても、そう語りました。
 馬は、なんといわれても、下を向いて黙っていました。ある日のこと、甲は、その馬にたくさんの荷物を積んだ重い車を引かして町へゆきました。途中その馬を見た人々は、みんな驚いて、口々に、馬をかわいそうだといい、また、よく働く、強い馬だといってほめたのであります。
 甲の百姓は、荷を下ろしてから、馬を引いて自分の村に帰ってきました。その途中、乙の百姓に出あったのです。
 乙の百姓は、じつに脊の高いりっぱな馬を引いていました。見たところでは、どこへ出しても恥ずかしくない馬でありました。その馬のかたわらへ甲の馬が並びますと、それは較べものにならないほど、姿の上で優劣がありました。甲の百姓は、内心恥ずかしくてしかたがありませんでした。
 そのとき、乙の百姓は、つくづくと甲の馬をながめていましたが、
「おまえさんの馬は、なかなかいい馬ですね。」といいました。
 甲の百姓は、内心恥ずかしく思っていたところですから、こういわれましたので、顔の色が赤くなりました。
「いくら、おまえさんの馬がりっぱでも、そうばかにするものでありませんよ。」と、甲の百姓はいいました。
 すると、乙の百姓は驚いて、
「いえ、私は、けっしてそんな意味でいったのであ…

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