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赤い魚と子供
あかいさかなとこども
作品ID51093
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 3」 講談社
1977(昭和52)年1月10日
初出「金の塔」1922(大正11)年9月
入力者ぷろぼの青空工作員チーム入力班
校正者本読み小僧
公開 / 更新2012-09-04 / 2014-09-16
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 川の中に、魚がすんでいました。
 春になると、いろいろの花が川のほとりに咲きました。木が、枝を川の上に拡げていましたから、こずえに咲いた、真紅な花や、またうす紅の花は、その美しい姿を水の面に映したのであります。
 なんのたのしみもない、この川の魚たちは、どんなに上を向いて、水の面に映った花をながめてうれしがったでありましょう。
「なんというきれいな花でしょう。水の上の世界にはあんなに美しいものがたくさんあるのだ。こんどの世には、どうかして私たちは水の上の世界に生まれ変わってきたいものです。」と、魚たちは話し合っていました。
 なかにも、魚の子供らは躍り上がって、とどきもしない花に向かって、飛びつこうと騒いだのです。
「お母さん、あのきれいな花がほしいのです。」といいました。
 すると、魚の母親は、その子供をいましめて、いいますのには、
「あれは、ただ遠くからながめているものです。けっして、あの花が水の上に落ちてきたとて食べてはなりません。」と教えました。
 子供らは、母親のいうことが、なぜだか信じられなかった。
「なぜ、お母さん、あの花びらが落ちてきたら、食べてはなりませんのですか。」と聞きました。
 母親は、思案顔をして、子供らを見守りながら、
「昔から、花を食べてはいけないといわれています。あれを食べると、体に変わりができるということです。食べるなというものは、なんでも食べないほうがいいのです。」といいました。
「あんなにきれいな花を、なぜ食べてはいけないのだろう。」と、一ぴきの子供の魚は、頭をかしげました。
「あの花が、この水の上に、みんな落ちてきたら、どんなにきれいだろう。」と、ほかの一ぴきは目を輝かしながらいいました。
 そして、子供らは、毎日、水の面を見上げて、花の散る日をたのしみにして待っていました。ひとり、母親だけは、子供らが自分のいましめをきかないのを心配していました。
「どうか、花を私の知らぬまに食べてくれぬといいけれど。」と、独り言をしていました。
 木々の咲いた花には、朝から、晩になるまで、ちょうや、はちがきてにぎやかでありましたが、日がたつにつれて、花は開ききってしまいました。そして、ある日のこと、ひとしきり風が吹いたときに、花はこぼれるように水の面にちりかかったのであります。
「ああ、花が降ってきた。」と、川の中の魚は、みんな大騒ぎをしました。
「まあ、なんというりっぱさでしょう。しかし、子供らが、うっかりこの花をのまなければいいが。」と、大きな魚は心配していました。
 花は、水の上に浮かんで、流れ流れてゆきました。しかし、後から、後から、花がこぼれて落ちてきました。
「どんなに、おいしかろう。」といって、三びきの魚の子供は、ついに、その花びらをのんでしまいました。
 その子供らの母親は、その翌日、我が子の姿を見て、さめざめと泣…

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