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両座の「山門」評
りょうざのさんもんひょう
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「観劇偶評」 岩波文庫、岩波書店
2004(平成16)年6月16日
初出「めさまし草 巻三」1896(明治29)年3月
入力者川山隆
校正者門田裕志
公開 / 更新2011-04-17 / 2014-09-16
長さの目安約 22 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

都座(明治二十九年二月)

 一番目「楼門五三桐」は五幕に分る。宋蘇卿明の真宗の命に因り此村大炊之助と名乗り、奴矢田平と共に真柴久次に仕へ、不軌を謀りしが、事顕れて自尽す。その最期に血書したる片袖を画中より脱け出でたる白鷹齎し来てその子石川五右衛門に渡す。五右衛門南禅寺の楼門にあり。武智光秀に養はれしため早く真柴久吉を恨めり。遺書を見るに及びて益復讐の志を固うす。偶々久吉順礼姿となりて楼門下に来り、五右衛門と顔を見合すを幕切とす。これを読まばこの筋の評する価なきこと自ら明ならん。
 九蔵の此村大炊之助は見ず。宋蘇卿最期の所は気乗に乏しく、鷹までそれにつり込まれて、四、五度も袖を落ししは、頼みがひなく見えたり。矢田平の立、長いのでは有名な方なるを、訥子の勤むることなれば、見ぬ方大だすかりなり。宋蘇卿の最期に駈け附くる所も騒がしきだけなり。
 楼門の幕明には、とにかくこの座だけの大薩摩あり。幕を切て落すと花の釣枝と霞幕とに装はれたる朱塗の楼門見事にて、芝翫の五右衛門、大百に白塗立て、黒天鵞絨寛博素一天の吹貫、掻巻をはおり、銀の捻煙管を持ち「春の眺は」の前に「絶景かな/\」と云ふ句を加へ「眺ぢやなあ」までを正面を切て云ふ処立派なり。しかし全く春の眺に感服してこの文句が出たとは見えず。とひよを聞きて、ぎつくりしてあたりを見廻すも、五右衛門にはあるまじき仰山なる仕草なり。袖を取りて読むくだりは、例のめちやめちやにて、宋蘇卿を「そうそうけい」と云ふなど大愛嬌なり。「おのれ久吉、今にぞ思ひ、待て居れ」にて、左の手に片袖を攫み、右の手にて我左の袖をかかげしまま、左の二の腕を握り、右足を高欄へかけ、きつと見え、この科にてせりあげになる所もまた立派なり。ただ寛博の前を行儀よく合せたるは拡げてもらひたかりき。
 九蔵の久吉、浅黄のこくもちに白のおひずる、濃浅黄のやつし頭巾を冠り、浅黄の手甲、脚半にてせり上げの間後向にしやがみ、楼門の柱に「石川や」の歌をかき居る。道具止ると、筆を墨斗にをさめ、札を肩にかけ、立上り、右に柄杓を持ち、左に笠を持ち、斜に下手に向ひて、柱に記しし歌を読み「順礼に」にて五右衛門が打ち出す手裏剣を右手の柄杓に受け止め、さてその柄杓を左手に取り直してさし上げ、右手を腰の番ひにあて「御報捨」と云ひての見え、これも立派なり。しかし頭巾の色濃すぎて醜く、しやがみて歌をかくも見た目悪し。せり出しは真中にても切にはぜひとも水盤の下手へ廻らでは五右衛門との形の釣合悪きに心付かぬは大不承知なり。
 二番目「春景色梅由兵衛」は三幕なり。男達梅の由兵衛古主の息子金谷金五郎に、その情婦にて元は由兵衛の古主にちなみある芸者小さんを身受して添はせんため、百両の金の工面に困みし折しも、由兵衛の妻小梅の弟なる長吉が、姉の頼にて、おのれが私通せる主人の娘おきみに調へ貰ひし百両を携へて来るに逢…

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