えあ草紙・青空図書館 - 作品カード


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ゲテ魚好き
ゲテうおずき
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「日本の名随筆4 釣」 作品社
1982(昭和57)年10月25日
入力者門田裕志
校正者noriko saito
公開 / 更新2011-01-01 / 2014-09-21
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

河豚

 どんな下手が釣っても、すぐにかかる魚は河豚とドンコである。
 河豚が魚の王で、下関がその産地であることは有名だが、別に下関付近でとれるためではない。下関が集散地になっているだけで、河豚は瀬戸内海はもちろん、玄海灘でも、どこの海でもとれる。東京近海にもたくさんいる。ただ、周防灘の姫島付近の河豚が一等味がよく、いわゆる下関河豚の本場となっている。(因に、九州では、河豚をフグと濁らず、フクと澄んで呼ぶ)
 私は北九州若松港に生まれて育ったので、小さいときから海には親しんだ。泳ぎも釣りも好きだった。その釣りの初歩のころ、やたらに河豚がかかるのであきれたものである。河豚は水面と海底との中間を泳いでいるし、食い意地が張っているので、エサをつけた糸をたらすとすぐに食いつく。しかし、ほんとうにおいしい河豚は、海底深くいる底河豚だ。河豚は一枚歯で、すごく力が強く貝殻でも食い割ってしまう。したがって、海底での貝の身をエサにしている河豚の味がよくなるわけだが、この河豚を釣るのはそう簡単ではない。ソコブクの一コン釣りといって、名人芸の一つにされている。私もしばしば試みたけれども、十数回のうちで、たった一度しか成功しなかった。
 響灘は玄海灘とつづいているが、白島付近は魚と貝類の宝庫だ。そこへ二、三年前、一月の寒い風に吹かれながら、ソコブク釣りに出かけた。河豚のおいしいのは十二月から一月までである。十月ごろから食べはじめ、三月のいわゆる菜種河豚でおしまいにするが、なんといっても正月前後がシュンだ。そこで、正月の松の内に、五、六人の友人と一隻のポンポン船で遠征し、寒さでみんなカゼを引いてしまった。しかも、河豚は二匹しか釣れず、その一匹を私がせしめたというわけである。多分、腕よりも偶然だったのであろう。エビのエサを使って、深い海底に、オモリのついた糸をおろした。底についたらしく手に感じたとき、すぐにグイグイと引っぱられ、あわてて引きあげてみると、大きなソコブクがかかっていた。釣れるときにはこんなにあっけなくかかるのに、釣れないとなると、どうにもしかたがないものである。私が成功したのは後にも先にもこれが一回きりだ。
 釣りあげられた河豚は腹を立てて、まん丸く、フットボールのようにふくらんだ。これを船底にたたきつけると、パチンと腹の皮が破裂するのだが、それも可哀そうなのでほっておいた。ところが、いつまで経ってもふくれあがったままで怒っている。友人が笑って、鈎の先で腹に穴を開けたら、プスウと空気の抜ける音がして、破れた風船のようにしぼんでしまった。
 河豚は生きているのを料理するよりも、死んで一日か二日経ってからの方がおいしい。料理法は釣る方とは関係がちがうから省くが、河豚釣りに行っても、普通の魚のように、釣りあげてすぐ、船の上でサシミにしたり、焼いたり煮たりなどしては食べないのであ…

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