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三稜鏡
さんりょうきょう
副題(笠松博士の奇怪な外科手術)
かさまつはかせのきかいなげかしゅじゅつ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「「新青年」傑作選 幻の探偵雑誌10」 光文社文庫、光文社
2002(平成14)年2月20日
初出「新青年」博文館、1932(昭和7)年11月号
入力者川山隆
校正者noriko saito
公開 / 更新2011-03-25 / 2014-09-16
長さの目安約 44 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 街頭はもう白熱していた。併し白い太陽は尚もじりじりとあらゆるものを照りつけ続けていた。そして路面からの反射光線は室内にまで火矢のように躍り込んでいた。捜査本部では、当事者達が一台の扇風機を囲んで、汗を拭きながら、捜査の方針を練っていた。
「首があると、被害の見当も、それで大体わかるのだが……」
 刑事課長は溜息を吐くようにして言った。
「首はしかし、あの溝には、絶対に無いですね」
 黒い不精鬚の刑事が煙草に火をつけながら言った。
「例えその首が見つかったところで、五週間からになれば、腐敗して了っているに相違ないから、それで被害者の身元を探り、そこから犯人を探すことは困難だろう。被害者の身元がわかる位なら、あれほど新聞で書立てたのだから、被害者と関係のある者から届けて来る筈だよ。届出人が無いところを見ると、被害者には身寄りが無いのだろうから、その首が見つかっても、身元は矢張わからないに相違ない。それより、被害者が女であることだけはわかっているのだから、女の持物とか、女の衣類などから探った方が早くないかね」
 署長はそう厳粛な口調で云った。
「犯人は相当の知識階級のようにも思われますね。首と胴とを、別々にして捨てるなどと云うことは余程考えて……」
 司法主任がそう云いかけているところへ、受付係の巡査が、急いで寄って来た。
「署長殿。首無し死体事件の、犯人も被疑者も、両方とも知っていると云う男が参りました。お会いになりますか?」
 受付係は姿勢を正しながら云った。
「参考までに会って見よう」
 署長は眼を[#挿絵]るようにしながら云った。受付係は急いで戻って行った。急に緊張した空気が漲って来た。
「この方です」
 受付係の巡査がそう云って、そこへ伴れて来たのは、身窄らしい洋服の、蒼白い顔の青年であった。
「僕は本当に知っているのです。犯人は間違いなく笠松博士ですよ。そして被害者と云うのは博士の令嬢です」
 青年は眼をきょときょとさせながら喘ぐようにして云うのだった。
「貴下は、何うしてそれを、知っているのですか?」
 署長は微笑を含みながらそう云って、青年に椅子をすすめた。
「僕は知っています。僕は、笠松博士の研究助手として、博士のところにいたのですから、何もかも知っているのです。詳しく申し上げると長くなりますが……」

 =暗転=

 笠松博士には、前々から、観念構成虧欠症性の微弱徴候と、誇大妄想狂的精神欠陥とがあった。併しながら博士をして、外科医術の研究に躍起の努力を続けさせたのは、その精神的欠陥であろう。笠松博士は、そのような精神的欠陥のために、医術の上にも、極めて奇怪な怖ろしい理想を抱いていて、常にその理想が可能であることを信じていたから。
「――外科医学の最大の理想は咽喉部の接合である。Aの首をBの胴体に接合することである。そこまで行かなければ外科医術…

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