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暗い天候
くらいてんこう |
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作品ID | 51313 |
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著者 | 中原 中也 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「中原中也詩集」 角川文庫、角川書店 1968(昭和43)年12月10日改版 |
入力者 | ゆうき |
校正者 | 木浦 |
公開 / 更新 | 2013-04-16 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 1 ページ(500字/頁で計算) |
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二
こんなにフケが落ちる、
秋の夜に、雨の音は
トタン屋根の上でしてゐる……
お道化てゐるな――
しかしあんまり哀しすぎる。
犬が吠える、虫が鳴く、
畜生! おまへ達には社交界も世間も、
ないだろ。着物一枚持たずに、
俺も生きてみたいんだよ。
吠えるなら吠えろ、
鳴くなら鳴け、
目に涙を湛へて俺は仰臥さ。
さて、俺は何時死ぬるのか、明日か明後日か……
――やい、豚、寝ろ!
こんなにフケが落ちる、
秋の夜に、雨の音は
トタン屋根の上でしてゐる。
なんだかお道化てゐるな
しかしあんまり哀しすぎる。
三
この穢れた涙に汚れて、
今日も一日、過ごしたんだ。
暗い冬の日が梁や壁を搾めつけるやうに、
私も搾められてゐるんだ。
赤ン坊の泣声や、おひきずりの靴の音や、
昆布や烏賊や洟紙や首巻や、
みんなみんな、街頭沿ひの電線の方へ
荷馬車の音も耳に入らずに、舞ひ[#挿絵]り舞ひ[#挿絵]り
吁! はたして昨日が晴日であつたかどうかも、
私は思ひ出せないのであつた。