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せみ
作品ID51321
著者中原 中也
文字遣い新字旧仮名
底本 「中原中也詩集」 角川文庫、角川書店
1968(昭和43)年12月10日改版
入力者ゆうき
校正者木浦
公開 / 更新2013-04-04 / 2018-12-27
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


蝉が鳴いてゐる、蝉が鳴いてゐる
蝉が鳴いてゐるほかになんにもない!
うつらうつらと僕はする
……風もある……
松林を透いて空が見える
うつらうつらと僕はする。

『いいや、さうぢやない、さうぢやない!』と彼が云ふ
『ちがつてゐるよ』と僕がいふ
『いいや、いいや!』と彼が云ふ
『ちがつてゐるよ』と僕が云ふ
と、目が覚める、と、彼はもうとつくに死んだ奴なんだ
それから彼の永眠してゐる、墓場のことなぞ目に浮ぶ……

それは中国のとある田舎の、水無河原といふ
雨の日のほか水のない
伝説付の川のほとり、
藪蔭の砂土帯の小さな墓場、
――そこにも蝉は鳴いてゐるだろ
チラチラ夕陽も射してゐるだろ……

蝉が鳴いてゐる、蝉が鳴いてゐる
蝉が鳴いてゐるほかなんにもない!

僕の怠惰? 僕は『怠惰』か?
僕は僕を何とも思はぬ!

蝉が鳴いてゐる、蝉が鳴いてゐる
蝉が鳴いてゐるほかなんにもない!
(一九三三・八・一四)



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