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早春散歩
そうしゅんさんぽ |
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作品ID | 51322 |
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著者 | 中原 中也 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「中原中也詩集」 角川文庫、角川書店 1968(昭和43)年12月10日改版 |
入力者 | ゆうき |
校正者 | 木浦 |
公開 / 更新 | 2013-08-02 / 2018-12-27 |
長さの目安 | 約 1 ページ(500字/頁で計算) |
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空は晴れてても、建物には蔭があるよ、
春、早春は心なびかせ、
それがまるで薄絹ででもあるやうに
ハンケチででもあるように
我等の心を引千切り
きれぎれにして風に散らせる
私はもう、まるで過去がなかつたかのやうに
少くとも通つてゐる人達の手前さうであるかの如くに感じ、
風の中を吹き過ぎる
異国人のやうな眼眸をして、
確固たるものの如く、
また隙間風にも消え去るものの如く
さうしてこの淋しい心を抱いて、
今年もまた春を迎へるものであることを
ゆるやかにも、茲に春は立返つたのであることを
土の上の日射しをみながらつめたい風に吹かれながら
土手の上を歩きながら、遠くの空を見やりながら
僕は思ふ、思ふことにも慣れきつて僕は思ふ……