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植物記
しょくぶつき
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「植物記」 ちくま学芸文庫、筑摩書房
2008(平成20)12月10日
入力者kompass
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2015-03-25 / 2015-03-01
長さの目安約 335 ページ(500字/頁で計算)
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本文より




 これまで発行せられたいろいろの雑誌に私の書いた小品文はそう鮮くなかった。今回桜井書店主人の需めを快諾してその中の興趣ありと濫りに自分勝手に認めるもの三十七題を択んで、ここにこれをこの一書に纏め読書界に送った。
 読書界の人々が果してこれを歓迎して下さるか、あるいは嫌厭せられるか、将亦風馬牛に遇せらるるか、いわゆる知らぬは亭主ばかりでそれは私の暁とり得ん所だが、私は今この書を世に公にするからには成るべく一般に読んで頂きたいと悃願する。書肆にあってもこの時局下出版困難の際に拘わらず、勇を鼓して費用構わず発行したからには、算盤が採れんでは困るであろう、イヤ大に売れんと商売にならんと泣き顔になるであろうと察する。
 それほどに言うなら中の記事はどうか、もしも悪るかりゃ売れんは当り前、また読んでくれんのも当前だ。が、しかしこの書の記事には相当に啓蒙的啓発的の事実を含めてあるので、幸に読んで下されし人々は、読後決して得る所は絶えて無かったとこぼしはしまいと信ずる。
 文章は多くは誰れにも読み易く解り易く書いてあるが、しかしその文中の事実には、大きく言えば、前人未発の新説新考を含んでいると自讃している。ただし中にはそんなのでもない文章も交っているから全篇が皆有用の文字だとは私は決して言わない。つまり玉石の混淆した一書であると白状するのが自分の良心に恥じぬ所であろう。

結網学人
牧野富太郎 のべる
[#改ページ]

万葉歌のツチハリ


 万葉集巻七の中に

吾がやどに生ふる土針心ゆも想はぬ人の衣に摺らゆな

という歌があるが、この歌によみ込んであるツチハリという植物は果して何んであろうか。従来学者によりてその実物の考えがまちまちになっていて、ある学者はこれをエンレイソウ(ユリ科)ならんといい、ある学者はヤクモソウ一名メハジキ(クチビルバナ科)であろうといい、またある学者はそれはツクバネソウ(ユリ科)であるといっていて、今はこのツクバネソウをそれに充るのがまず通説の様になっている。そしてその根拠とする所は彼の源順の『倭名類聚鈔』に王孫を都知波利(ツチハリ)と書いてあるによってである。
従来我邦の学者は支那で王孫という草を我がツクバネソウに充てていれど、これは疑もなく妄断であって王孫は決してツクバネソウその者ではなく、これは全く我が日本には産せぬ別の草である。世間の学者達は今尚依然として小野蘭山の『本草綱目啓蒙』などの旧説を信じ、これに準拠して書いていれど、最早進歩せる今日の知識から観ると同書漢名の充て方(アイデンチフィケーション)などは間違っているものが多く、それをそのまま用うるとなると、トンダ間違と混乱とを惹き起す事になる。彼の大槻先生の『大言海』なども植物に関してはこの旧説の中に漂うている辞書の一つである。
 今上の様に歌の中のツチハリをツクバネソウとして見…

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