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金色のボタン
きんいろのボタン
作品ID51551
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 12」 講談社
1977(昭和52)年10月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2016-11-28 / 2016-09-09
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 ゆり子ちゃんは、外へ出たけれど、だれも遊んでいませんでした。
「みんな、どうしたんだろう。」と、往来の上をあちらこちら見まわしていました。けれど、一人の子供の影も見えませんでした。
 そのうち、ポン、ポンと、うちわ太鼓をたたいて、げたのはいれのおじいさんが、小さな車を引きながら、横町から出てきました。そして、ゆり子ちゃんの立っている前を通って、あちらへいってしまいました。
 つばめが、ピイチク、ピイチク、鳴いて、まぶしい大空を飛んでいます。
 ゆり子ちゃんはいつもみんなが遊んでいる、お宮の前へいってみようと、お湯屋の前を過ぎて、広い道を歩いていきました。
 このとき、ぴかりとなにか土の上で、光っているものが目にはいりました。
「おや、なんだろう。」と、ゆり子ちゃんは、その方へ走っていきました。
 金色のまるいものが、道の上に落ちていました。ゆり子ちゃんは、それを拾って、小さな手で土を落としていると、通りかかった、知らないおばさんが、
「お嬢ちゃん、なにを拾いました。ちょっとお見せなさい、金の指輪でないこと。」と、そばへ寄ってきて、ゆり子ちゃんの手の中をのぞきました。
「おばさん、こんなのよ。」と、ゆり子ちゃんは、光るものを見せました。
「ああ、ボタンですか。ほほほ。」と、笑って、そのおばさんは、さっさといってしまいました。
 ゆり子ちゃんは、しばらく立って、その菊の花のような、模様のついている、金色のボタンをながめていましたが、見れば、見るほどめずらしくなってきました。
「おまわりさんに、とどけなくていいかしらん。」
 そんなことを考えているところへ、仲よしの正ちゃんが、あちらから飛んできました。
「ゆり子ちゃん、なにしているの。」
 正ちゃんは、すぐに、ゆり子ちゃんの持っているものを見つけました。
「金ボタンだね、きれいだな。僕におくれよ。僕、勲章のように胸につけるのだから。」と、いいました。
「おまわりさんに、とどけなくていいか、私おうちへいってきいてみるわ。」と、ゆり子ちゃんが、いいました。
「とどけなくていいんだよ。これは、ほんとうの金じゃないんだもの。ただのボタンじゃないか。」と、正ちゃんは、しっかり握って、放そうとしませんでした。
 おとなしいゆり子ちゃんは、いやといえませんでした。そして、困ったように、正ちゃんの顔を見ていました。
「ゆり子ちゃん、おくれね。」と、正ちゃんは、無理にもほしいのであります。
 しかたなく、ゆり子ちゃんは、だまったままうなずきました。
 正ちゃんは、金色のボタンを自分の胸のあたりへつけて、勲章のつもりで、大股に歩きました。
「ゆり子ちゃん、おいでよ。原っぱの方へいってみよう。」と、正ちゃんは、いいました。いままで、たった一人でさびしかったゆり子ちゃんは、急に、お友だちができて、うれしくなりました。そして、自分の拾っ…

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