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心の芽
こころのめ
作品ID51563
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 13」 講談社
1977(昭和52)年11月10日
初出「少国民の友 22巻11号」1946(昭和21)年2月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2017-11-30 / 2017-10-25
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 ある日、どこからか、きれいな鳥が飛んできて、木にとまりました。腹のあたりは黄色く、頭が紅く、長い尾がありました。野鳥のように、すばしこくなく、人間になれているらしく見えるのは、たぶん飼われていたのが、かごを逃げ出したのかもしれません。
 みんなが、大騒ぎをしました。大人も、子供も、どうしたら捕らえられようかと、木の近くへ集まりました。正吉は、胸がどきどきして、自分が捕らえようと、心にきめると、みんなにむかって、
「あの鳥は、おれのものだ。わあわあいっちゃいけない。」といって、彼は、すぐ鳥のとまっているかきの木に登りはじめました。
 鳥は、そんなことにまったく気づかず、さものんきそうに、あちこちと景色をながめていました。見ている人たちの中には、うまくつかまればいいがと思ったり、あるいは、早く逃げればいいのにと思ったり、てんでになにか考えていたであろうが、とにかくだまって、正吉のすることを見まもっていたのです。
 正吉は、木の幹の蔭で、なるたけ自分のからだを隠すようにして、音をたてずに、ねこがねずみをねらうときのようすそっくりで、すこしずつ鳥にしのびよって、もう一息というところまで達しました。そこで考えていた彼は、おそるおそる手をさしのべたのでした。
「うまくいったぞ!」と、見ている人の中から、いったものもあります。
 しかし、あまり鳥が美しいので、つかまえる手がにぶったか、指先が、尾にふれんとした瞬間、急に鳥は、おどろいて飛び立ちました。そのとき、正吉のからだも、いっしょに木からはなれて、空でもんどり打ち、地上へと落ちました。
「鳥には羽があるが、人間にはないものを、なんで、手づかみができるものか。」と、こんどは、見ていた人々は、口々にののしりながら、気を失った子供のところへ駆けつけました。そして、だき起こして介抱するやら、親たちを呼びにいくやら、あわてふためいたのであります。
 この村には、専門の医者がありませんでした。内科と外科を兼ねた頼りげないものしかなかったので、治療にも無理があったか、正吉の折れた右脚は、ついにもとのごとく、伸びずにしまいました。それから、不具となった少年は、友だちからばかにされたり、わらわれたりしたのであります。
 彼は、ろくろく学校へもいかず、早くから、町の縫い箔屋へ弟子入りして、手仕事をおぼえさせられたのでした。生まれつき器用の正吉は、よく針をはこびました。
「正吉、この金紗の羽織は、仕損じぬよう、念を入れてしなよ。」というように、主人は、注意しながらも、上等のむつかしい品をば選んで、彼に扱わせるようにしました。そして、でき上がりを見て、いつもほめたものです。
 だから彼は、いつからともなく、ほかの弟子たちを抜いて、仕事の上では、主人の代わりをしていました。この店は、町で古くからの縫い箔屋だったので、金持ちの得意が多く、また遠…

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