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宿題
しゅくだい
作品ID51580
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 12」 講談社
1977(昭和52)年10月10日
初出「小学四年生」1938(昭和13)年8月号
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2017-06-18 / 2017-05-29
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 戸田は、お父さんがなくて、母親と妹と三人で、さびしく暮らしているときいていたので、賢吉は、つねに同情していました。それで、自分の読んでしまった雑誌を、
「君見るならあげよう。」と、与えたこともありました。
 学校へきても、戸田のようすは、なんとなくさびしそうだった。親しい友だちもなく、いつも独りでいました。運動場へ出ても、賢吉のほうから、話をしなければ、だまっているというふうでありました。遠足の日が、近づいたときでした。みんなは、集まれば、楽しそうに、その話をしていました。
「海へいったら、かにをつかまえてこよう。」と、いうものもあれば、
「僕は、きれいな石をたくさん拾ってくるのだ。」と、いうものもあります。
「針と糸を持っていって、魚を釣ろうかな。」
「ばか、そんなことできるもんか、生きているたこを売っているというから買ったらいいよ。」と、いったものもあります。
 そんなときでも、戸田は、黙ってみんなの話をきいていました。
「君もいくだろう。」と、賢吉がいうと、戸田は、口のあたりに寂しい笑いをたたえて、うなずきました。
 遠足の前の晩でした。賢吉はお母さんにつれられて、明日持っていく、お菓子を買いに出かけました。
「キャラメルは、二箱あれば、いいでしょう。」と、お菓子屋で、お母さんが、おっしゃると、
「三箱、買ってよ。」と、賢吉は、いいました。
「まあ、そんなに食べられて?」と、お母さんは、お笑いになりました。
 こんどは、果物屋の前にきて、
「りんごは、いくつ?」と、お母さんが、おっしゃると、
「四つ買ってよ。」と、賢吉はいいました。
「そんなに持っていくの?」
 お母さんは、驚きなされたけれど、賢吉のいうようにしてくださいました。そして、お家へ帰って、お弁当にお寿司を、こしらえてくだされたのです。
「お母さん、たくさん入れてよ。僕、お腹がすくのだから。」と、賢吉は、お頼みしました。
「おまえは、どうしたんですか、いくら遠足でも、そんなに食べられるはずがないでしょう。」と、お母さんは、賢吉の顔をごらんになりました。
 賢吉は、うそをいっては悪いと思って、かわいそうなお友だちに分けてやるのだと答えると、お母さんは、喜んで賢吉のいうようにしてくださいました。しかし、戸田は、ついに遠足にこなかったのです。
 ある日のことでした。算術の時間に、先生は、戸田が、宿題をしてこなかったので、たいそうおしかりになりました。
「おまえには、新しい問題をやらない。」と、いって宿題の刷ってある紙をお渡しになりませんでした。そのうちに、暑中休暇となりました。ある暑い日の午後のこと、賢吉の父親は、外から汗をふきながらもどりました。
「いま、彼方の田圃道を歩いてくると、ひきがえるが、かまきりをのもうとしていた。」と、話されました。
「それから、どうした?」と、賢吉は、目をまるくし…

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