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正二くんの時計
しょうじくんのとけい
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 12」 講談社
1977(昭和52)年10月10日
初出「台湾日日新報 夕刊」昭和15年2月8日、9日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2017-10-17 / 2017-09-24
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 正二くんは時計がほしかったので、これまでいくたびもお父さんや、お母さんに、買ってくださいと頼んだけれども、そのたびに、
「中学へ上がるときに買ってあげます。いまのうちはいりません。」というご返事でした。
 戦争がはじまってから、時計は、もう外国からこなくなれば、国内でも造らなくなったという話を聞くと、正二くんは、
「売っているうちに、早く買ってもらいたいものだ。」と思ったのです。それで、お父さんに向かって、またお頼みしたのでした。すると、
「なくなることはない。高くなっても、お前が中学へ上がるときには買ってやるから、心配しなくていい。」と、お父さんは、いわれたのでした。
 学校では、小谷も、安田も、森も、みんな時計を持っていました。いままで持っていなかった高橋も、このごろ買ってもらったといっていました。正二くんは、みんなが上着のそでをちょっとまくって時計を見るときのようすが、目についていてうらやましくなりました。時計があると徒競走をしても、タイムが取れるし、学校へいくバスの中でも時計があれば、安心できると思ったのです。正二くんは、いつか兄さんがいい時計を買いたいといっていたことを思い出して、兄さんのところへいきました。
「兄さん、いつ時計を買うの。」
「まだわからない。」
「買ったら、兄さんの時計を僕におくれよ。」といいました。
「ああ、やるけれど、一年先だか、二年先だかわからないぞ。」
「えっ、一年も、二年も……。」
 正二くんは、目を大きくみはったのです。
「うちに、お父さんの前に持っていた、大きな時計があったろう。あれをもらうさ。」と、兄さんがいいました。
 それは、大型の、ひもで下げる昔ふうのものでした。商店か、古道具屋の店頭でもなければ、見られぬものです。
「やだ、あんな昔のものなんか。」と、さすがに正二くんも、おかしくなって、笑いました。
「ばか、あれは、機械がいいのだ。この時計なんかとくらべものにならぬほど正確なんだ。」と、兄さんは、自分の時計をながめました。
「じゃ、兄さん、あれをおもらいよ。」
「あんなの下げて歩けるか。」
 これを聞くと、正二くんは、お父さんのもとへ飛んでいきました。
「お父さん、僕に、大きな時計をおくれよ。」
「あれは、おまえなどの持つ時計ではない。中学へ上がるとき、いい腕時計を買ってやるから。」
「僕、待ちきれないんだよ、だから、あの大きいのをくれてもいいでしょう。」
 お父さんは、だまっていられました。
 正二くんは、お父さんのへやへ入って、方々のひきだしを開けて、大きな銀時計をさがしました。
 やっとそれを見つけると、お父さんの前に持ってきて、
「もらっていいでしょう。」といいました。
「それをやる代わりに、もうほかのを買ってやらないぞ。」
「ああ、いいです。」
 正二くんは、時計のひもをバンドに結んで、外へ出か…

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