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武ちゃんと昔話
たけちゃんとむかしばなし
作品ID51604
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 12」 講談社
1977(昭和52)年10月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2017-10-17 / 2017-09-24
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 この夏休みに、武ちゃんが、叔父さんの村へいったときのことであります。
 ある日、村はずれまで散歩すると、そこに大きな屋敷があって、お城かなどのように、土塀がめぐらしてありました。そして、雨風にさらされて古くなった門が、しめきったままになって、内には、人が住んでいるとは思われませんでした。
「どうしたんだろうか。」と、武ちゃんは、不思議に思いました。門のすきまからのぞくと、家のほかに土蔵もあったけれど、ところどころ壁板がはずれて、修繕するでもなく、竹林の下には、枯れ葉がうずたかくなって、掃くものもないとみえました。あたりは、しんとして、ただすずめの鳴き声が、きこえるばかりです。
「この家の人は、どこへいったんだろう?」
 武ちゃんは、家へ帰ると、さっそくそのことを叔父さんにたずねたのであります。
「あの、大きな化け物屋敷みたいな家には、だれも住んでいないのですか。」と、いいました。叔父さんは、笑いながら、武ちゃんの顔をごらんになって、
「あんなところまでいったのか。なるほど、一時は化け物も出るといううわさがあったよ。いい教訓になることだから、あの家の話をしてあげよう……。」と、叔父さんは、武ちゃんに、つぎのような話をしてくださいました。

 それは、昔のことでありました。
 正直な百姓が、いつものように、朝早く、野良へ仕事にいこうと、くわをかついで家を出たのであります。まだ、土がしめっていて、あまり人の通ったようすもありません。百姓が村はずれまでくると、なにか道の上に落ちています。
「なんだろう?」と、足を止めて、それを拾い上げました。なかなか重いのであります。包みを解いてみて、驚きました。重いのも道理で、袋に小判がたくさん入っていました。
「だれが、このお金を落としたろう。気がつかずにいってしまうとは、よくよく道を急いでいたとみえる。なんにしても気の毒なことだ。しかし、落とし主は、きっともどってくるだろう。まだ、そう遠くへはいくまいから。」と、正直な百姓は、思いました。
 彼は、その包みを目につくように、道のそばの木の枝にかけておきました。そして、自分は根のところへ腰を下ろして番をしていました。ところが、どうしたのか落とし主はもどってきませんでした。
 一日は過ぎ、また二日は過ぎました。けれど、街道を急いでくる、それらしい旅人の姿は見えなかったのです。彼は、毎日こうして仕事を休んで待つことに張り合いのないのを感じました。
 ところが、三日めのことであります。一人の年老った旅僧が、自分の前を通りかかりました。
「おお、このお坊さんにきいてみたら、あるいは手懸かりがあるかもしれない。」
 ふと、こう思ったので、彼は、お坊さんを呼び止めて、自分のこうして待っているわけを話しました。なんとなく、徳高く見えたお坊さんは、百姓の話をだまってきいていましたが、
「いまま…

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