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つばめと魚
つばめとうお
作品ID51619
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 13」 講談社
1977(昭和52)年11月10日
初出「初等四年」1946(昭和21)年10月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2017-11-27 / 2017-10-25
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 そこは、町のにぎやかな通りでありました。ある店の前へ子どもがあつまっていました。ちょうどきかけたつばめは、どんなおもしろいものがあるだろうと自分もおりてみました。店には、金魚や、めだかなど、いろいろならべてあったが、その中でも、ガラスのいれものにはいった熱帯魚がめずらしいので、みんなは、この前に立って、美しい姿に見とれていました。
「なあんだ、あの魚たちなら、おれはよく知っているぞ。それにしても、よくこんな遠方まで渡ってきたもんだな。」と、つばめは、屋根のあたりを飛びながら、いいました。
 ピイチク、ピイチク、つばめがしきりとなくので、ガラスばちの魚も、なんだかききおぼえのある声と思ったのでしょう。上を仰ぐと、つばめは、
「人のいないときに、またまいりますよ。」といって、飛び去りました。それから、じきに、またつばめは、やってきました。
「やあ、お達者でけっこうなことです。どうして、こんなところへきましたか。でもりっぱなうちにはいって、きれいな砂をしいてもらい、そのうえおいしそうな餌がたべられておしあわせではありませんか。」と、つばめは、魚たちに、いいました。
「そうおっしゃれば、まあしあわせですよ。なにしろ、みんなが私たちを、金魚よりきれいだといって、ほめてくれますし、めずらしいので、貴重品あつかいにして、価も高くつけ、大事にしてくれますから、くにに、いたときのことを考えれば、くらべものになりませんよ。」と、熱帯魚は、答えました。
「まったく、あちらにいては、あなたたちの、きれいなのが、めだちませんでしたものね。」
「いったい、くにの人は、ほんとうに美しいものを、見る目がないんですよ。」と、一匹の魚が、いきごんでいいました。
「そうばかりではありません。あちらの自然が、きれいなのです。花でも、虫でも、日の光から、水の色まで、なにもかも、赤・緑・青・黄というふうに目のいたくなるほど、色がこいのですから、あなたたちがめだたぬのも無理はありません。」と、つばめはさとしました。
「こんなに、のんきに、暮らされれば、くにへなど、かえりたくありません。」と、ほかの一匹がいいました。
 そのとき、青い顔色の少年が、疲れているらしく、重そうな歩きつきをして、あちらからきました。つばめは、それと同時に、飛び去りました。
 少年は金魚をちょっと見ただけで、やはり、熱心に熱帯魚をながめていました。そして、心からそう思うもののごとく、
「いいな、こんな魚たちは、なんにも知らずに、のらり、くらりと、ただ食べて、泳いでいられて、おれたちは、病気で、仕事を一日休むのも、容易でないんだからな。」と、ひとりごとをいいました。
 たとえ、それが事実であっても、この世の中では、まだ少年に真に同情するものがなかったのです。少年は、また重そうに病める足を引きずりながら、歩いていきました。
 日が暮…

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