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はととりんご
はととりんご
作品ID51653
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 12」 講談社
1977(昭和52)年10月10日
初出「日本の子供」1940(昭和15)年1月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2017-10-24 / 2017-09-24
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 二人の少年が、竹刀をこわきに抱えて、話しながら歩いてきました。
「新ちゃん、僕は、お小手がうまいのだぜ。」
「ふうん、僕は、お胴だよ。」
「お面は、なかなかはいらないね。」
「どうしても、背の高いものがとくさ。正ちゃん、いつか仕合してみない。」
 新吉は、お友だちの顔を見て、にっこりと笑いました。
「まだ、君と、やったことがないね。だが、新ちゃんを負かすと、かわいそうだからな。」
「だれが、正ちゃんに負けるものか。」
 新吉は、自信ありげに肩をそびやかして、前方をにらみました。
「僕は、新ちゃんに負けない。」
「僕も、正ちゃんに負けない。」
 二人は、道の上で、竹刀を振りまわしながら、仕合のまねごとを始めたのです。
「お小手。」
「お面。」
「おや、あぶのうございますよ。」
 ふいに、どこかのおばさんが声をかけました。おばさんは、道の端の方へ体をさけていました。
「新ちゃん、あぶないからよそうや。」と、正二がいいました。
「ああ、よそう。」
 二人は、往来で、こんなことをしてはよくないことに気がついて、ふたたびおとなしく、肩を並べて歩いていました。さっきのおばさんは、いきかけてから、ちょっと立ち止まって、振り向いて笑いました。
「正ちゃん、僕のはと、ねこにとられてしまった。」
「えっ、とられた。」
「どらねこがとったのだよ。君、知らない。尾の長い三毛ねこだ。はとが遊びから帰って、箱のトラップへはいるのを見ていたのだね。後からついてはいって、二羽とも食べてしまったのさ。出ようとしても、トラップの口があかないだろう。ねこのやつ、箱の中でじっとして、目を細くして眠っていたのだよ。」
「悪いやつだね。それからどうした。」
 正ちゃんは、足を止めて、新ちゃんの顔を見ました。
「僕、どうしてやろうかと思って、おねえさんを呼んだのさ。おねえさんも二階へ上がってきて、『悪いねこだから、ひどいめにあわせておやり。』というから、僕、太いステッキを持ってきて、なぐろうと思ったのさ。箱の中から引き出そうとしても、お腹が大きくて、トラップの口から出そうもないのだよ。」
 新吉は、そのときのことを思い出して、息をはずませました。
「なぐった。」
「だって、箱の中へはいっているのだろう。上からなぐれないし、僕、困ったのだよ。」
「ねこは、どうしていた。」
「悪いやつだね、目を細くして、知らないふうをしているのさ。」
「あばれなかったの。はははは、だまそうと思ったのだね。」と、正ちゃんが笑いました。
「じっとしているから、おねえさんに箱のふたをはずしてもらって、僕が、なぐってやろうとしたのだ。」
「なぐった。」
 新吉は、ねえさんが注意しながら、ふたをはずしたのを思い出しました。そのとき、ねこはあまえるようにして、体をねえさんにこすりつけたので、自分は、振り上げた手をどうしようかと、ちょ…

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