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風船虫
ふうせんむし
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 12」 講談社
1977(昭和52)年10月10日
初出「児童文学」1936(昭和11)年9月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2017-11-17 / 2017-10-25
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 原っぱは、烈しい暑さでしたけれど、昼過ぎになると風が出て、草の葉はきらきらと光っていました。昨日は、たくさん雨が降ったので、まだくぼんだところへ、水がたまっています。もうすこしばかり前でありました。
「きょうは、きっとよく釣れるよ。」といいながら、徳ちゃんは、釣りざおとバケツを持って先に立ち、後から、正ちゃんが、すくい網をかついでここを通ったのです。
 年ちゃんは、毎日のように川へいくと、おばあさんにしかられるので、今日は、いっしょにいくのをやめたのでした。二人が、もう川へ着いた時分、年ちゃんは、原っぱへきて、お友だちをさがしていました。
「やあ、きれいだな。」と、年ちゃんは、水たまりのところに立ち止まって、大空の白い雲が下の水の面に映っているのをのぞいていました。
 ちょうど、同じ時刻に、あちらには、誠くんが、さびしそうに独りで遊んでいて、年ちゃんを見つけると、
「年ちゃんおいでよ。おもしろいものがあるから。」といいました。
「なあに。」と、年ちゃんは、もはや雲のことなど忘れてしまって、その方へ駆けていきました。
「風船虫が、いるよ。」と、誠くんは、穴の中を指しました。
 その穴は、このあいだ、みんながボールをして遊んでいると、ペスがきて、しきりに前足で掘っていたところでした。
 年ちゃんが、水の中を見ると、黒い虫が、五、六ぴきも底の方を往ったり、きたりしていました。
「これが、風船虫なの?」
「ああ、風船虫だよ。」
「君は、釣りにいかなかったのかい。」と、年ちゃんが、誠くんに聞きました。
「きょうは、早くお湯に入って、お母さんとお使いにいくのだから。」と、誠くんは、いかない理由を、語りました。
「僕、風船虫をお家へ持っていこうかな。」
「ああ、二人で分けようよ。」と、誠くんがいいました。
 そこで、年ちゃんと、誠くんは、紙片の中へ虫を半分ずつ分けて、二人は、めいめいお家へ持って帰ったのであります。
 年ちゃんは、風船虫をサイダーの空きびんの中へ入れました。そして、小さく紙を切って、水の中へ落としました。すると、風船虫は、紙片の沈むのを見て、急いでそれにつかまりました。そして、いっしょに下へ沈んでしまうと、今度は、自分の体を浮かしにかかったのです。すると、紙片が、ずんずんと下から上へ引き上げられてきました。やがて水の上まで着くと、風船虫は、紙を放しました。紙片は、また水の底の方へ沈んでいきました。風船虫は、あわてて、これを追いかけるように、銀色の体を光らして、水をくぐって下の方へ泳いでいきました。そしてまた紙を上に引き上げにかかるのでした。
「おもしろいな。」と、年ちゃんは、喜びました。しかし、いつまでたっても、風船虫は、飽きるということなく、同じことをくり返していたのです。
 年ちゃんは、しまいには、ごろりと畳の上へ寝ころんで、びんの内で風船虫の体が、…

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