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水七景
みずしちけい
作品ID51689
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 14」 講談社
1977(昭和52)年12月10日
初出「童話読本」1948(昭和23)年9月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2018-01-14 / 2017-12-26
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

       *

 村から、町へ出る、途中に川がありました。子どもは、お母さんにつれられて、歩いていました。
 橋をわたりかけると、子どもは、欄干につかまり川を見おろしました。水が、あとから、あとから、流れてきて、くいにぶつかっては、うずをまき、ジョボン、ジョボン、と、音をたてていました。子どもは、ふしぎそうに、それを見まもり、
「お母ちゃん、水が、なにかいっていますね。」と、いいました。
「早く、道草をとらんで、いらっしゃいと、いっているのですよ。」と、お母さんは、答えました。
「この水は、どこまでいくの。」
「そうですね、村や、町を通って、海へいくのですよ。」
 二人は、話しながら、また、歩きだしました。岸の、ねこやなぎは、まだ赤いずきんをかぶって、ねていました。

       *

 今年の、遠足は、昔の、城あとを見にいくのでした。
 ぼくたちは、田んぼの、小道を歩いて、森のある村を通り、そして、さびしい小山のふもとへ出ました。
 そこが、城あとでありました。わずかにのこるものは、当時、とりでにつかったという、青ごけのはえた、大きな石と、やぶにかくれた、池くらいのものです。その池には人のいないとき、金の蔵が浮くという、いいつたえがありました。
「みなさん、池はあぶないから、気をつけるんですよ。」と先生は、いわれました。
 くまざさをわけて、下をのぞくと、水のおもてが、青黒く光って、それへ、まわりの木の枝から、たれさがる、むらさき色のふじの花が、美しいかげをうつしていました。「ドボン。」と、どこかで、かえるのとびこむ音がしました。

       *

 ぼくたちの、泳ぎにいく川は、村の近くにありました。水が、いつもたくさんで、きれいでした。浅いところは、そこにうずまる、白いせとものや、青い石ころまですきとおって見えました。橋のところから、川下へいくにつれて、だんだん、深くなりました。
 くるみの木のあるあたりが、いちばん深くて、ぼくたちの背は、立ちません。ここでは、よく大きなふなや、なまずなどが、つれました。
 今年も、いつしかたのしい、泳ぎの季節となりました。おばあさんが、
「きゅうりの、初なりを、水神さまにあげなさい。」と、おっしゃったので、ぼくは、畑から、みごとなきゅうりを、もいできて、それへ、自分の名を書きました。そして、それを川へ流しにいきました。
 ぼくは、ひさしぶりで、なつかしい川のにおいをかぎました。水も、ぼくを見て笑えば、太陽まで、きら、きらと、よろこんで、歓迎してくれました。

       *

 地主は、縁側で、庭をながめながら、たばこをすっていました。そのとき、きたないふうをした、旅僧が、はいってきて、
「どうぞ、水を一ぱい、いただきたい。」と、もうしました。すると、地主は、つれなく、
「この井戸の水は、金気があって、のめ…

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