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山に雪光る
やまにゆきひかる
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 13」 講談社
1977(昭和52)年11月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2017-03-06 / 2017-02-02
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 いろいろの店にまじって、一けんの筆屋がありました。おじいさんが、店先にすわって太い筆や、細い筆をつくっていました。でき上がった筆は、他へおろしうりにうるのもあれば、また自分の店において、お客へうるのもありました。昔とちがい、このごろは、鉛筆や万年筆をつかうことが多く、筆をつかうことはすくなかったのです。しかし、大きな字を書いたり、お習字をしたりするときは、筆をつかうのでした。
 武男は、よくおじいさんのところへ遊びにきて、お仕事をなさるそばで、おじいさんから、お話をきくのを楽しみとしました。
「おじいさん、あの字は、だれが書いたの。」と、頭の上にかかっている額をさしました。
「ああ、あれはここへみえる、書家の方が、お書きなされたのだ。」
「うまく、書けているの。」
「みなさんが、おほめなさる。山高水長、やまたかく、みずながし、といってもよい。」
「おじいさんに、書いてくださったの。」
「そうだ、ここにある、この筆で、お書きになったのだ。私のつくった筆が、たいそう書きよいと喜ばれてな、一枚くださったのだよ。」
 おじいさんは、箱の中から、一本太い筆をとりだして、いいました。それは、白い毛の筆でありました。
「ぼく、お習字のとき、つかう筆とよくにているな。」と、武男は、目をまるくしました。
「武坊のもよい筆だが、これとはちがっている。」と、おじいさんは、笑われました。
「ぼくのも白いね。この筆の毛は、やはり羊でない。」
「そう、羊の毛だ。」
 武男は、筆をつかったあとで、かなだらいに、水をいれて洗うと、もくもくと、ちょうど汽車の煙のように、まっ黒い墨を、筆からはき出します。そして、そのあとの毛は、清らかな水をふくんで、美しい緑色に見えるのでした。
「おじいさん、どの毛でつくった筆が、いちばんよいのですか。」と、武男は、ききました。
「いちがいにいえぬが、細筆などは、たぬきの毛だろうな。」
「どうやって、たぬきをつかまえるの。」
「たぬきか。おとしや、わなでつかまえたり、また、子飼いにして育てたりするのだ。」
「山へいけば、たくさん、獣物がすんでいるのだね。」と、武男は、いいました。
「昔は、このあたりでさえ、いたちが出たものだ。」
 おじいさんも、子供の時分から、町に育って、野生の動物を見る機会は、少なかったのです。
 もう火ばちに火のほしい、ある日のことでした。武男が、おじいさんのところへいくと秋の薬売りが、額の字を見ながら、おじいさんと話をしていました。いつしか、字の話から、山の話になったらしいのです。
「なにしろ、中央山脈の中でも、黒姫は、険阻といわれまして、六、七月ごろまで、雪があります。やっと、草や木の芽が出はじめると、薬になるのばかり百種ほどつんで、ねり合わせたのが、この薬ですから、腹痛や、食あたりなどによくききます。これをおいてまいりましょう。」…

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