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夕雲
ゆうぐも
作品ID51704
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 13」 講談社
1977(昭和52)年11月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2017-10-09 / 2017-09-24
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 お庭の垣根のところには、コスモスの花が、白、うす紅色と、いろいろに美しく咲いていました。赤とんぼが、止まったり、飛びたったりしています。お母さんは、たんすのひきだしにしまってあった、浅黄木綿の大きなふろしきを出して、さおにかけ、秋の日に干していられました。ふろしきをひろげると、白く染めぬいた紋が見えました。
「お母さん、大きなふろしきですね。」と、もも子さんは、お縁側で見ていて、いいました。
「もう三十年も前になります。私がお嫁にきたときに、おふとんを包んできたのですよ。昔の木綿ですから、まじりがなくてじょうぶです。こんど、おまえがお嫁にいくときは、これにおふとんを包んであげますよ。」と、お母さんは、おっしゃいました。
 もも子さんは、なんだかうれしいような、悲しいような気持ちがして、ぼんやりと日がほこほこと当たる、布をながめていました。
 よし子さんや、かず子さんのお母さんは、まだお若くて、髪の色も黒くていらっしゃるのに、うちのお母さんは、どうして、もうこんなに白髪が多いのだろう。かず子さんのお母さんも、染めていらっしゃるときいたけれど。
「お母さん、髪をお染めにならないの。私、お母さんの若くおなりなさるの、うれしいんですもの。」
「ええ、染めたいと思いますが、いつもそんときには、お客さまがあって、汚い頭をしていて困りますから、もも子のお休みの日でもないと染められません。」と、お母さんは、いわれました。
 もも子さんは、明日は日曜日だから、お母さんが髪をお染めになればいい、そして、ごいっしょに散歩につれていっていただこうと思いました。
「明日、私、どこへもいかずに、お家にいるわ。」
「じゃ、明日ばかりは、染めましょうね。」
 日曜の日には、もも子さんが、きた人のお取り次ぎをしました。そして、午後のことであります。
「おかげで、さっぱりしました。もも子などは、これから大きくなって、世の中というものを知るのですけれど、お母さんのように年をとると、髪は白くなるし、肩は凝るし、目はかすんで、しかたがありません。きょうは、よく家にいてくれました。さあ外へいって遊んでいらっしゃい。」
「お母さん、こんど按摩さんに、もんでもらうといいわ。」
「きましたら、もんでもらいましょうね。」
 もも子さんは、外へ出て、お友だちと、お宮の鳥居のところで遊んでいました。そばには大きないちょうの樹があって、このごろ吹く風に、黄色な葉が、さらさらと散って、足もとは一面に敷いたようになっていました。
「こんどの日曜に、もも子さんくりを拾いにいかない。」
「どこかに、くりの木があって。」
「すこし遠いけど、人の住んでいない荒れた屋敷で、大きなくりの木があるの。学校の帰りに、松野さんがつれていってくれたのよ。」
「お化け屋敷でない。」
「ほ、ほ、ほ、そんなものではないわ。」
 お友だちとこん…

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