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雪の降った日
ゆきのふったひ
作品ID51714
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 12」 講談社
1977(昭和52)年10月10日
初出「お話の木」1938(昭和13)年2月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2016-12-21 / 2016-11-21
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 雪が降りそうな寒い空合いでした。日も射さなければ、風も吹かずに、灰色の雲が、林の上にじっとしていました。葉のついていないけやきの細い枝が煙って見えるので、雲と木の区別がちょっとわからないのでありました。
「泣き出しそうな空ね。」と、かよ子ちゃんがいいました。
「ほんとうだわ。私、こんな日がきらいよ。」と、ふところ手をした竹子さんも、いいました。男の子たちとはなれて、二人は、並んで空をながめていました。
「もっとなにか持っておいでよ。火がなくなってしまうじゃないか。」
 重ちゃんの兄さんが、棒の先で、たき火をつついていました。青い煙が自分の方へ流れるので、顔をしかめています。
 年ちゃんは、走っていって、どこからか米俵の空いたのを下げてきました。原に捨ててあったとみえて、俵は霜でぬれていました。
「待った、待った。そんなのを入れると、すぐ火が消えてしまう。よくここで、乾かしてからでないとな。」と、ブリキ屋のおじいさんがいいました。おじいさんは、自分で木くずを拾ってきました。このあいだまで大工たちが、ここで他所へ建てる家の材木を切り込んでいたのでした。ここは、町裏の原っぱであります。
 まだ、お正月なので、子供たちは、ここへきて、たこを上げたり、羽根をついたりして遊んでいました。
「ごらんよ、女があんなことをしている。乞食なんだね。」と、先に気のついた年ちゃんが、いったので、たき火にあたっているものが、みんなその方を向きました。一人の女が、長いはしのようなもので、ごみ捨て場をかき返して、落ちている菜っ葉や、新聞紙のようなものを地の上へひろげて、撰り分けていました。
「ああ、乞食だね。」と、義ちゃんが、いいました。
「いや、乞食じゃない。あちらに車が置いてある。」と、おじいさんが、いいました。なるほど、手車が置いてあって、その車の上にかごが乗っていました。
「なんなの、おじいさん。」
「そうだな。あれは、貧乏のくず屋さんだ。」
 年ちゃんは、車のそばに五つか六つの男の子が、ぼんやりと立っているのを見ました。その子供は、くつ下もはかずに、ぼろぐつをはいていました。そして、母親のところへはいこうとせずに、空に舞っていたとびを見ているようであります。
「なにをさがしているんだろうか。」
「あれは、紙や、金くずや、こわれたびんのようなものを撰り分けているのさ。」
「あんな菜っ葉も、持っていくのかしらん。」
「きっと、家へ持っていって食べるんだよ。」
「汚いなあ。」
「おじいさん、あんなごみなんかお金になるの。」と、年ちゃんが、ききました。
「いま、鉄くずでも、紙くずでも、値になるのだよ。あの紙は、またすき直して、おまえたちの使っているような鼻紙や、もっとりっぱな紙になるのだし、鉄くずは、溶かして、またいい鉄になるのだ。」と、おじいさんは、答えました。
 重ちゃんは、石を…

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