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お母さんのお乳
おかあさんのおちち |
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作品ID | 51749 |
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著者 | 小川 未明 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「定本小川未明童話全集 5」 講談社 1977(昭和52)年3月10日 |
入力者 | 特定非営利活動法人はるかぜ |
校正者 | 雪森 |
公開 / 更新 | 2013-06-03 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 2 ページ(500字/頁で計算) |
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赤ちゃんは、お母さんのお乳にすがりついて、うまそうに、のんでいました。
それをさもうらやましそうにして、五つになったお兄さんと、七つになったお姉さんとがながめていました。
兄さんは、ついに我慢がしきれなくなったとみえて、お母さんのお乳に、小さな手をかけようとしました。すると、赤ちゃんは、顔を真っ赤にして、かわいらしい頭をふって、さわってはいけないといって怒りました。
「よし、よし、お兄さん、おっぱいにさわってはいけませんよ。これは、赤ちゃんのお乳ですから。」と、お母さんは、笑いながらいわれました。
お姉さんも、またお兄さんも、笑いましたが、お兄さんは、なんとなくさびしそうでした。そして、お母さんに向かって、
「お母さん、赤ちゃんは、いじわるですねえ。」といいました。
「坊やも、赤ちゃんの時分は、やはりおなじだったのだよ。」
「お母さん、僕もこんなに、いじわるだったの?」
「赤ちゃんが生まれるまでは、坊やが、毎日こうして、母さんのおっぱいにぶらさがっていたの。そしてお姉ちゃんが手を出そうものなら、やはり、こうして顔を真っ赤にして怒ったの……。このお乳のまわりには、みんなの唇の跡が、数かぎりなくついているのです。」と、お母さんはいわれました。
このお話を聞くと、お姉さんも、そうであったかというように、かわいらしい目を輝かしました。
しかし、お姉さんも、お兄さんも、そんなにして毎日飲んだ、お乳の味を忘れてしまって、ただお乳を見ると恋しいばかり。赤ちゃんだけが、お乳の味を知っていました。