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男の子を見るたびに「戦争」について考えます
おとこのこをみるたびに「せんそう」についてかんがえます
作品ID51795
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「芸術は生動す」 国文社
1982(昭和57)年3月30日
入力者Nana ohbe
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2012-01-14 / 2014-09-16
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 それは、独り、男の子と限った訳ではないが、子供を一人前に養育するということは決して容易なことでないのは、恐らく、すべての子供を持った程の人々なら、想像されることだと思います。
 乳飲児の時代から、ようやく独り歩きをする時代、そして、学校時代と考うるさえその過程の長いことは、かの他の動物に於けるとは比較にならない。病気をさせない心配から、病気になった時の心配、また、怪我をさせないように注意することから、友達の選択や、良い習慣をつけなければならぬことに気を労する等、一々算えることができないでありましょう。ある時は、それがために、子供を持たない人々を幸福なりとして、却って、羨むような場合もありました。
 それでなくとも、いま自分が子供の親となり、子供に気を労するのを知ってから「怪我をしないことが、孝行の一つである」と、いう言葉の真意を見出されるようになったのです。
 これ等の心やりも、注意も、みな子供に対する深い愛からに他ありません。自分が子供を持ってみて、はじめて他の親たる人達の心も理解されるのです。自分の子供が可愛ければ、他の子供にもやさしくなるのは、この道理であります。
 このことは、古今、東西、国を異にし、また種族を異にしても相違のある筈はないでありましょう。こゝに思い至るたびに、私は、戦争ということが、頭に浮び、心が暗くなるのを覚えます。
 戦争! それは、決して空想でない。しかも、いまの少年達にとっては、これを空想として考えることができない程、現実の問題として、真剣に迫りつゝあることです。
 帝国主義の副産物として、戦争を避け得られないことは、説明すべく、あまりにはっきりとした事実であります。そして、いま、世界の事情を観考するのに、第二の世界戦争が太平洋を中心として、次第に色濃く、萌しつゝあるが如くです。
 それが、いよ/\現実の問題となって、四海が波立つことは、五年の後か、或は十年の後か知らない。しかし、若し、世界が現状のまゝの行程を辿るかぎり、いかに巧言令辞の軍縮会議が幾たび催されたればとて、急転直下の運命から免れべくもない。こう思って、何も知らずに、無心に遊びつゝある子供等の顔を見る時、覚えず慄然たらざるを得ないのであります。
 朝に、晩に、寒い風にも当てないようにして、育てゝ来た子供を機関銃の前に、毒瓦斯の中に、晒らすこと対して[#「こと対して」はママ]、たゞこれを不可抗力の運命と視して考えずにいられようか? 互に、罪もなく、怨みもなく、しかも殺し合って死なゝければならぬ子供等自身の立場に立ちて、人生問題として考えるばかりにとゞまらない。また、これを階級問題に移して、最も悲惨な犠牲者として、考えるばかりにとゞまらない。こうした悲情な物理力に対して、また狂暴なる野蛮力に対して、互に戦うことに於て、いかなる正義が得られ、いかなる真理の裁断が下され…

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