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民芸とは何か
みんげいとはなにか
作品ID51821
著者柳 宗悦
文字遣い新字新仮名
底本 「民藝とは何か」 講談社学術文庫、講談社
2006(平成18)年9月10日
入力者Nana ohbe
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2012-07-24 / 2014-09-16
長さの目安約 65 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

第一篇 なぜ民藝に心を惹かれているか


一 民藝とはいかなる意味か

 工藝の諸問題のうちで、過去に対しても将来に向っても、一番意味深い対象となるのは民藝の問題なのです。美の問題からしても経済の問題からしても、これ以上に根本的な工藝問題はないのです。何故なら工藝の鑑賞に浸る時、またはその真理を追求する時、誰もこの領域に帰って来るからです。「民藝品たること」と「工藝品たること」との間には、密接な関係が潜むからです。工藝が実用を生命とする限り、民藝をこそ工藝中の工藝と呼ばねばなりません。それ故何人もこの問題に触れることなくしては、工藝論を組み立てることができないのです。
 しかるに今日までこの領域が真理問題として明確に取り扱われたことはないのです。もし正当にその意義が認識せられたら、工藝の歩むべき方向について、またそれを顧みるべき批判の原理について、一つの標的を捕え得るでしょう。だが多くの人々にとって、それは見慣れない世界であるに違いないのです。それ故私はできるだけ平易な言葉のうちに、順を追って目撃した真理を記してゆこうと思うのです。恐らく何事よりも字句の意味から筆を起すのが至当かと思われます。
 民藝とは民衆が日々用いる工藝品との義です。それ故、実用的工藝品の中で、最も深く人間の生活に交る品物の領域です。俗語でかかるものを「下手」な品と呼ぶことがあります。ここに「下」とは「並」の意。「手」は「質」とか「類」とかの謂。それ故民藝とは民器であって、普通の品物、すなわち日常の生活と切り離せないものを指すのです。
 それ故、不断使いにするもの、誰でも日々用いるもの、毎日の衣食住に直接必要な品々。そういうものを民藝品と呼ぶのです。したがって珍らしいものではなく、たくさん作られるもの、誰もの目に触れるもの、安く買えるもの、何処にでもあるもの、それが民藝品なのです。それ故恐らくこれに一番近い言葉は「雑器」という二字です。昔はこれ等のあるものを雑具とも呼びました。
 したがってかかるものは富豪貴族の生活には自然縁が薄く、一般民衆の生活に一層親しい関係をもっています。それ故、実用品の代表的なものは「民藝品」です。例えば御殿は王侯の造営物であり、民家は民衆の建物でいわば建物の中の民藝です。例えば金地襖の彩画は貴族的な絵ですが、大津絵の如きは「民画」とも呼ぶべくいわば民間の画です。民家、民器、民画、私はそれ等のものを総称して「民藝」と呼ぼうと思います。
 しかし民藝品はごく普通のもの、いわゆる上等でないものを指すため、ひいては粗末なもの、下等なものという聯想を与えました。実際高級な品、すなわち上等品に対してこの言葉を用いる時が多いため、雑器など云うと侮蔑の意に転じています。つまらぬもの、やくざなもの、安ものを意味しています。このためか今日まで民藝品は工藝史の中に正当な位置を有つこ…

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