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美の国と民芸
びのくにとみんげい
作品ID51824
著者柳 宗悦
文字遣い新字新仮名
底本 「民藝とは何か」 講談社学術文庫、講談社
2006(平成18)年9月10日
入力者Nana ohbe
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2012-08-08 / 2014-09-16
長さの目安約 12 ページ(500字/頁で計算)

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本文より



 ちょうど科学者が少しでもこの世を真理に近づけたいと仕事に勤むように、私は生きている間に少しでもこの世を美しくしてゆきたいと念じている者です。宗教家の身になれば、どうかして神の国をこの世に具現したいと希うでしょう。同じように私は美の国をこの世に来したいばかりに、様々なことを考えまた行おうとしているのです。
 それならどうしたら美によって義とせられる国が実現されるか。このことを用意するためには、どうしても二つのことが根本になると思われます。第一は何が正しい美なのかを明らかにしておかねばなりません。いわば美の標準を定めることです。これがなければ進むべき方向が分らなくなるでしょう。それも能う限り物に即してその標的を示すことが肝要に思われます。基準は具体的であることがさらに望ましいのです。抽象に止っては活きた力を齎らし難いからです。
 第二にはどうしたらかかる正しい美しさでこの世を広く潤すことができるか。それを実現し得る道筋を見出さねばなりません。それには美が量に交る必要がありましょう。ですがたくさんできるものが果して美と結び合うかどうか。そのことがまず以て明らかにされねばなりません。もし不可能なら吾々の希望は果敢ない夢に過ぎなくなるでしょう。
 私はこれ等の真理を明らかにするために、無数の品物を顧みました。そうしてそこから何が正しい美しさなのかを学ぼうとしました。かくして長い間の経験と反省とはついに一つの結論に私を導いたのです。それはこうでした。美のことについては今までは誰も美術にのみ注意を傾けましたが、美の密意を解くためには、工藝がいかに大切な鍵を与えるかを悟るに至ったのです。そうしてその工藝の中でも民藝が、すなわち民衆的工藝がいかに美の国を来すために、重要な役割を勤めるかを切実に感ずるに至ったのです。のみならず何の摂理か、美の健康さが最も豊にそこに見出されることを知ったのです。しばらくの間、私のこの信念について心を開いてよき聴手となって頂けたら幸いに思います。



 様々な作物を前に置いて眺めると、大体これ等のものが二つの種類に分れていることを気附かれるでしょう。もっとも時代を溯ればこの区別が薄らいできますが、近世になるとはっきり左右に分かれ、しかもそれ等に位の差さえできてしまったのです。
 一つは貴族的な品物で、少数の富者のために作られるもの。贅を尽すので高価であり、手間がかかって少量よりできませぬ。何がな立派なものを作ろうと意識を働かせ技巧を凝らしますから、華麗なものとなります。それ故装飾が複雑になり、色調が多彩となり、形態が錯綜してくるのは止み難い結果です。一方これとは性質が逆な民衆的作物が眼に映ります。一般公衆のために備えるもの故多量にまた廉価に作らねばなりません。それには簡単な手法や工程をいつも必要とします。のみならず用途を眼目とするのでで…

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