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ママ先生とその夫
ママせんせいとそのおっと
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「岸田國士全集4」 岩波書店
1990(平成2)年9月10日
初出「改造 第十二巻第十号」1930(昭和5)年10月1日
入力者kompass
校正者門田裕志
公開 / 更新2012-04-27 / 2014-09-16
長さの目安約 46 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

奥居町子  聖風学園の経営者
同 朔郎  その夫
花巻篠子  変死せる児童の母
有田道代  教師
富樫    篠子の甥と称する男
尾形    嘱託医
角さん   小使
たい    その妻
かず    篠子の女中
運転手
その他男女の生徒多勢
[#改ページ]


東京に近いある新開田園都市の一隅。赤松の自然林を切り開いて、木造平屋のバラツク大小二棟と、二階建の住宅一棟――これが、奥居町子の経営する聖風学園とその附属建築物である。




屋外の授業場――四人共同の腰掛と机が並び、その正面に黒板が立てかけてある。黒板の前に立ち、白墨の字を消しながら、十人足らずの生徒に話しかけてゐるのが、教師の有田道代である。二十四五の目立たない女。

道代  それで、黒白を弁ぜずといふ意味はわかりましたね。もう一度云ひますが、黒白といふのは物事の善し悪しといふことです。黒が悪い方で、白が善い方……。いゝですか。お腹が黒いといへば、性のよくない人間といふことになるでせう。心に穢れがないことを潔白と云ひます。潔白ですね。それでは、今日の授業はこれで終ります。今からお昼の鈴が鳴るまで、ママ先生のお話があるさうですから、しばらくさうしていらつしやい。

生徒は十歳から十三四歳までの男女であるが、何れも所謂「良家の子弟」らしき風貌を具へ、中には、一見低脳児と見える某子爵の三男も交つてゐる。教師の話がすむと、あるものは起ち上り、あるものは隣りへ悪戯をしかけ、筆筒をカチャカチャいはせ、「先生! 御不浄へ行つてもよろしうございますか」と問ひ、いつ時、騒然となるが、やがて彼等にママ先生と呼ばせてゐる奥居町子が、静々とそこに現はれる。

町子  (道代に目礼を返したる後)さ、皆さん、少し静かにして、ママ先生のお話を聴いて下さい。なんです、晃さん、鉛筆なんか咬へて……そんなにお腹が空いたんですか? それではと……。今日はちよつと六ヶ敷いお話ですから、ぼんやりしてるとわかりませんよ。皆さんは、この学校のお兄さんお姉さん組でせう。さうすると、もうそろそろいろんな理窟がわからなければいけません。しかし、これからママ先生がお話しようとすることは、鞭子さんや栗雄さんのやうに小さい方には、まだほんとによくわからないかも知れません。それはそれでよろしい。今にわかるやうになります。さて、皆さんは、町の子供たちが、よくこんな歌を唱つてゐるのを知つてますか。――男と女と豆煎り、煎つても煎つても煎りきれない……(笑声)可笑しくはありません。さういふ歌です。ところで、これはどういふ意味でせう。――男の子と女の子とが一緒に遊んでゐる。可笑しいなあ――といふ意味です。どうして男の子と女の子とが一緒に遊ぶと可笑しいんでせう。この学校では、男生と女生と、なんでも一緒です。勉強も一緒、遊戯もおほかた一緒、御飯も一緒、たゞ、お風呂に…

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