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泡鳴五部作
ほうめいごぶさく
副題04 断橋
04 だんきょう
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「泡鳴五部作 下巻」 新潮文庫、新潮社
1955(昭和30)年7月25日
初出「毎日電報」1911(明治44)年1月1日~3月1日、「東京日々新聞」1911(明治44)年3月2日~3月16日
入力者富田晶子
校正者雪森
公開 / 更新2016-12-31 / 2016-09-09
長さの目安約 175 ページ(500字/頁で計算)

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本文より



 今夜も必らず來るからと、今度はよく念を押して置いた。然し、餘り自分ばかりで行くのもかの女並びにその家へきまりが惡い樣だから、義雄は今一文なしで困つてゐる氷峰をつれて行つてやらうといふ氣になり、薄野からの歸り足をまた渠の下宿へ向けた。
 いつもの通り、案内なしであがつて行き、氷峰の二階の室のふすまを明けると、渠とお鈴とがびツくりして、ひらき直つた。お鈴はまた裁縫に行く時間をごまかし、氷峰のもとへ押しかけて來て、何かあまえてゐたところであつたらしい。
「こりやア失敬した、ね」と云つて、義雄が這入つて行き、早速飯を云ひつける樣に頼んだ。
「また、ゆうべも御出馬か」と、氷峰が冷かす。
「今夜は一緒に行かう。」
「よからう。」氷峰も義雄と同じ樣にねむさうな樣子だ。お鈴は、今まで赤らめてゐたその顏へ急に不平らしい色を加へて、渠をちらと見た。
「お鈴さん、さう燒かなくツてもいいぢやアないか、ね?」
「わたしやそんなこと知らない、わ。」かの女は恥かしさうに笑ひながら云ふ。
「それでも、君」と、氷峰はにこつきながら、「とう/\結婚することだけは僕も承諾したよ。」
「あら、そんなこと云はないでも――」
「云つたツてかまはないぢやアないか?」義雄はからかひ半分に、「僕があなたの邪魔をするぢやアなし、さ。お鈴さん、とう/\成功した、ね。」
 お鈴は再び顏を赤くした。そして、座に堪へられなくなつたかの樣に、あわただしく歸つてしまつた。
「きのふ、實は承諾を與へたのぢやが、あいつ、おほ喜び、さ。」かう云つて、氷峰は、きのふ、お鈴の兄龜一郎が泣き附くやうに頻りに懇願したので決つたこと。その兄弟等は妹の棄て場を得て、喜んでゐるだらうと云ふこと。然し自分の樣なづぼらのものには、器量や學問より、經濟向きの天才あるものを妻とする必要があること。その點はかの女の兄弟も確かに誇りとして保證してゐること。その話の進行の爲め、あす、山に行つて、自分の兄と相談して來るつもりであること。などを、語つた。且、この長い間解決のつかなかつた問題が解決した喜びに、お鈴の兄の龜一郎が不斷の謹直にも似ず、薄野行きを發議したので、ついて行つたことを加へた。義雄はそれで氷峰のねむさうな原因が分つた。
 それから、有馬の家に歸つて見ると、東京からまた原稿料と、樺太廳の知人で、第○部長をしてゐる者に個條書きにして照會した木材拂ひ下げに關する返事とが來てゐた。返事は、即ち、左の通りだ――
  御問合に就き返事
一、木材輸出見本として、樺太島森林より立木を賣拂ひ出願するには、その數量に制限なし。但し、立木代金四百圓以上に亙るものは、本島森林賣拂ひに關する法律勅令未だ發布前なるを以つて、一願件として處分すること能はざるに依り、分割するを要す。
二、本島に於て枕木を伐出したるものは、元露國時代に於て、西海岸エストル川にて、落葉…

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