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津軽地方特有の俚諺
つがるちほうとくゆうのりげん
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本随筆紀行第三巻 青森|秋田|山形 遊ぶ童子の紅き頬」 作品社
1988(昭和63)年2月10日
入力者向山きよみ
校正者noriko saito
公開 / 更新2010-11-10 / 2014-09-21
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 雪国の東北人は概してさうだが、わが津軽地方人も老若男女を問はず話好きで、且つ大概話上手である。特に津軽百姓がさうで、所謂水呑百姓の果てまでも日本の他の地方の百姓のやうにはコセつかず、余裕綽々たるものが在り、ユウモアに富み、舌鋒鋭く、警句の多々交はる談話をかはす。菊池仁康君の所謂東京の言葉をコチラの言葉で飜訳出来ても、コチラの言葉を東京の言葉に飜訳できぬ例が随分多いといふ意味で、地方的に独特な、含蓄味の多い用語例の談話をする。ところでこの警句にはこの地方特有に流布されてゐると思はれるところの、奇警な諺が間々這入つてゐることがある。で、どれくらゐあるか知れないが、自分でときどき小耳に挟んだり、友人故老達から聞いたものの内、詩的なものや、ユウモアのあるのを地方語のままに摘録して見る。無論その個々に註釈、時には用例なぞもつけなければ、他の地方の諸君に解るものでないから、これも附け添へてその特色味を充分に発現させることにしよう。
 ○手間取りと春風ア日一杯。
 手間取りは日雇労働者のことである。「春風ア」のアの発音はアを独立して発音するのでない。上の「春風」の結尾の音、ゼとあはせて、みじかく二重母韻に発言して、英語の there の ere の音になる。「ア」の意味は天爾遠波「は」と等しい。この諺は春風が主であつて、手間取りの仕事が一日一杯行はれると同様、春風が吹き出せば一日吹続くといふことを語つてゐる。春風に労働者を対照にもつて来たところに、百姓味が津々と溢れてゐる。なほこの諺は日本の他の地方にも辞句が多少変つてあるかも知れぬと思ふ。
 ○春風ア岩透す。
 春先きの風の身に浸みて、寒いのを言つてゐる。これも他の地方にあるかも知れない。寒い大気の揺らぎを鋭どく感覚的に述べたところが面白い。
 ○あだりバヅア桶かぶてもアダル。
 あだりバヅは当り鉢で摺り鉢のことである。バヅアのアは前のアと同じく、この言葉の主格たるを示す。桶は物集博士大辞林に「をけをいふ。上総。下総。武蔵などにて」とあるが、コガは当地方では酒、醤油醸造用の大桶を専ら指して言ふ。かぶてもは被つてもである。アダルはアタル「当る」である。この諺の意味は神様の罰といふものは如何に逃れようと思つて万全の策を施しても、逃れられないといふ事である。
 ○ゴデエの才兵衛ア坊主にならネ。
 ゴデエは地名で五代と書く。中津軽郡大浦村内にある部落名である。才兵衛はその昔近郷で名の響いた侠客風の男で、性質頗る豪快、無理なことも無理とせず、痛快にやつてのけた男で、今も石碑が残つて村民から崇敬を受けてゐる。アは前例どほり上の音と二重母韻をなし、万国音標文字を使ふと bie といふ発音になる。坊主の発音は殆ど bonz、ならネは「ならない」ではなく、東京語の所謂「ならアね」である。この一句の意味は「五代の才兵衛ほどの豪のものでも、…

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