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海のおばあさん
うみのおばあさん
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 11」 講談社
1977(昭和52)年9月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2016-07-11 / 2016-06-10
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)
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本文より


 大昔のことでありました。海のおばあさんといって、たいそう気むずかしやで、すこしのことにも腹を立てるおそろしいおばあさんが海の中に住んでいました。だれもあまり近寄りませんでしたから、おばあさんは、さびしかったのです。
 ちょうど、そのころ、山に、また山のおばさんといって、やさしいおばさんが住んでいました。だれにでもしんせつで、気にいらないことがあっても、笑っているというふうでしたから、小鳥たちや、空を飛ぶ雲でさえ、おばさんを慕って、
「おばさん、きょうはいいお天気ですが、ご機嫌はいかがですか?」と、いって、寄ってきました。いつも、おばさんは、楽しかったのです。
 あるとき、海のおばあさんは、風を使いにたて、
「私は独りぽっちでさびしいから、どうぞお話にいらしてください。」と、山のおばさんのところへいってきました。
「それはお気の毒のことだ、さっそくいってあげましょう。」と、いって、山のおばさんは、大きなざるの中へ新しい野菜と珍しい果物をたくさん入れて、お土産にして海のおばあさんのところを訪ねました。
「よく、きてくれました。」と、おばあさんは出迎えました。
「これは、山で取れましたものですが、どうぞめしあがってください。」と、おばさんは、ざるに入った土産を出しますと、おばあさんは、
「これは、これは。」といって、まだ見たことのないものばかりなので、喜びました。
 いろいろお話をして、おばさんが帰るときにおばあさんは、魚と貝を取り出して、
「これはすこしばかりだが、海のものだから持って帰ってください。」と、いいました。おばさんは、お礼を申して、さて、魚と貝をなんに入れていったらいいものかと考えましたが、なにもなかったので、
「おばあさん、すみませんが、そのざるをお貸しください。」と、いって、自分の土産を入れてきたざるを借りて帰りました。
 山のおばさんは、ざるのことなど忘れてしまいましたが、海のおばあさんは、いつまでたってもおばさんが、ざるを返さないので腹を立てていました。このことを、風に相談しましたが、風もあまり海のおばあさんが、やかましすぎると思ったので、聞き流してしまいました。
 それからというもの、おばあさんの心が海に残っていて、いまにも、浜辺へ打ち寄せる波の音が、
「ざるかえせ――、ざるかえせ――。」と、なりつづけているのであります。



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