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学校の桜の木
がっこうのさくらのき
作品ID52052
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 10」 講談社
1977(昭和52)年8月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2012-09-07 / 2014-09-16
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 ある、小学校の運動場に、一本の大きな桜の木がありました。枝を四方に拡げて、夏になると、その木の下は、日蔭ができて、涼しかったのです。
 子供たちは、たくさんその木の下に集まりました。中には、登って、せみを捕ろうとするものがあれば、また、赤くなったさくらんぼを取ろうとするものもありました。
 桜の木は、ちょうどお母さんのように、子供たちのするままに委していました。そして、子供たちの、楽しそうに遊ぶようすを見下ろしながら、いつも、にこにこと笑っているように見受けられました。
「太い木だなあ。」といって、無邪気な子供たちは、小さな両手を開いて、太い幹に抱きついて、見上げるものもあれば、
「いい木だなあ。」と、いまさらのように、感心して、ながめるものもありました。
 年老った木は、かわいらしい子供たちに、こんなことをされるのが、さもこのうえもなくうれしそうでありました。
 そのうちに、上のほうの子供たちは、六年の修業を終えて、学校から出てゆきました。そして、また、幼い子供たちが、新しく入ってきました。
 その子供たちは、みんながしたように、この桜の木の下で遊びました。桜の木は、春にはらんまんとして、花が咲いたのであります。夏は、また日蔭ができて、そこだけは、どこよりも涼しい風が吹いたのであります。
 こうして、長い月日のうちには、いろいろのことがあったでありましょう。たとえば、きかん坊主の秀吉が、先生にしかられて、この運動場に立たされたとき、彼は悲しくなって、泣き出しそうになりました。
 そのとき、木は、
「男が、泣くものでない。さあ、私のそばへおいで。」といって、太い自分の体で秀吉を支えてくれました。
 また、弱虫の正坊が、足を傷めて、体操を休んだときであります。
「さあ、この日蔭に入って、おとなしくしていな。じきに、そればかしの傷はなおってしまうだろう。はやく元気になって、私の頭の上まで、登る勇気が出なければならん。ここへ上がると、それは、すてきだから。あちらに町が見えるし、また遠い村のお宮の屋根も見えて、いい景色だぜ。」と、桜の木は、やさしく、いってくれたのでありました。
 あるときは、生徒たちが、二組に分かれて、競技をしたことがあります。そんな場合には、甲は赤い帽子を被り、乙は白い帽子を被りましたが、一方は、桜の木の右に、一方は桜の木の左にというふうに、陣取りました。そのとき、桜の木は悠々として、右をながめ、左が見下ろして、さも、みんなの元気のいい顔を見るのがうれしそうに、
「さあ、どちらも、しっかりやるのだよ。」と、いっているごとく見えました。
 しかし、まれには、いたずら子があって、桜の木の皮をはいだりしました。木は、そんなことをされても、だまっていましたが、木を愛する他の善良な生徒たちは、けっして、だまってはいませんでした。
「君、そんないたずらをす…

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