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黒いちょうとお母さん
くろいちょうとおかあさん
作品ID52059
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 10」 講談社
1977(昭和52)年8月10日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2012-01-29 / 2014-09-16
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 このごろ毎日のように昼過ぎになると、黒いちょうが庭の花壇に咲いているゆりの花へやってきます。
 最初、これに気がついたのは、兄の太郎さんでした。
「大きい、きれいなちょうだな。小鳥ぐらいあるかしらん。弟が見つけたら、きっとつかまえてしまうだろう、今年の夏は、すばらしい昆虫の標本をつくるのだといっていたから。弟の帰らないうちに、はやく逃げていってしまえばいいにな。」
 太郎さんは、こう思いながら、白いゆりの花にとまってみつを吸っているくろあげはを見守っていました。ちょうは、すこしの不安もなく、さもたのしそうに、花にたわむれているごとく見えました。
 そのうちに、十分、みつを吸ってしまったので、ひらひらと重そうに、翅をふって垣根を越えて、まぶしい、空のかなたへ、飛んでいってしまいました。
 翌日は、土曜日で、二郎さんも早く学校から帰ってきました。そして、みんなが、お縁側で話をしていました。
「うちのゆりは、やまゆりだろう。あの種子はどうしたのだろうね。」
 二郎さんは日の光に、銀色にかがやいているゆりを見ていいました。
「お父さんが、田舎から、持っていらしたのだ。」と、太郎さんが教えました。
「山へいくとたくさん咲いているのだろうね。田舎へいってみたいもんだな。」
「年数の古いものほど、花がたくさん咲くのだそうだ。」
「うちのは、いくつついているかしらん。」
 こんなことを兄弟が、話し合っているときに、ちょうど昨日の黒いちょうが、どこからかゆりの花を目ざして飛んできました。
「あ、くろあげはだ。静かにしていておくれ、僕いま網を持ってきて、つかまえるのだから……。」と、これを見つけた二郎さんは、目の色を変えて起ち上がりました。
「ばかなちょうだな、飛んでこなければいいのに……。」と、兄の太郎さんは舌打ちをしました。
「なにをいってんだい。僕いろいろな虫を採集して標本を造るんじゃないか。」
 二郎さんは、はや、捕虫網を持ってきました。すると、突然お母さんが、
「あのちょうを捕ってはいけませんよ。あの黒いちょうは、毎日いまごろ、ゆりの花に飛んでくるのです。お母さんは、とうから気がついていました。」
 これをきくと、太郎さんは、昨日ばかりでないのかと思いました。
「なぜ、とっていけないのですか。」と、二郎さんがたずねました。
「あのちょうは、お母さんですから。」と、お母さんがいわれたので、二人は、びっくりして、お母さんの顔を見つめたのであります。
「お話をしてあげますから……。」と、お母さんがおっしゃったので、二郎さんは、捕虫網をそこに投げ捨て、太郎さんとお行儀よく並んで、お母さんの前にすわりました。
 お母さんは、お話をおはじめになりました。
「あるところに、四つばかりのかわいらしい女の子がありました。毎日お昼過ぎになると、いつのまにか、大きなげたをはいて、お家から…

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