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年ちゃんとハーモニカ
としちゃんとハーモニカ
作品ID52093
著者小川 未明
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 11」 講談社
1977(昭和52)年9月10日
初出「教育・国語教育 5巻9号」1935(昭和10)年9月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2016-04-07 / 2016-03-06
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 年ちゃんの友だちの間で、ハーモニカを吹くことが、はやりました。はじめ、だれか一人がハーモニカを持つと、みんながほしくなって、つぎから、つぎへというふうに、買ったのであります。けれど、みんなは、それを吹き鳴らすことを覚えないうちに、やめてしまったけれど、年ちゃんだけは、べつに教わりもせずに、いろいろの歌を吹けるようになりました。
「学校のことが、そういうふうにできるといいのですけれどね。」と、お母さんが、おっしゃいました。
「いや、なんだって、上手になればいいさ。年坊は、音楽家になるかな。」と、お父さんは、笑われました。
 しかし、学校のことは、ハーモニカのようには、ゆきませんでした。それだけでなく、試験が近づいてきても、年ちゃんは、遊んでばかりいるので、お母さんは心配なさいました。
「そんなに遊んでいてもいいのですか?」
 そうお母さんにいわれると、さすがに、年ちゃんも心配になるとみえて、ご本を出したり、また、お姉さんや、お兄さんから算術のわからないところをきいたりして、勉強をしましたが、それも、そのときだけで、いつかまた遊んでしまったのです。
 やがて、試験も終わり、いよいよ今日は、通信簿をもらうのでありました。
「どんなお点をもらってくるでしょうか。」と、お母さんと、お姉さんは、年ちゃんの帰るのを待っていられました。
 すると、なにか鼻唄をうたいながら、小さなくつの足音がして、つぎに、ご門の戸が開きました。年ちゃんが、帰ってきたのです。
「ただいま。」と、いつものように、年ちゃんは、ごあいさつをしました。
「どう? 年ちゃん。」と顔を見るや、お姉さんが、おききになりました。
「ガア、ガア、いう声がきこえた?」と、年ちゃんは、いいました。
「なあに、ガア、ガア、って?」
「僕、たくさん、あひるをもらってきたから。」と、年ちゃんは、朗らかなものです。
「まあ、乙ばっかしなの?」と、こんどは、家じゅうが、大笑いになりました。
「丙がなかっただけでも、ありがたいのですよ。さあ、この通信簿をお仏壇の前におあげなさい。」と、お母さんが、おっしゃいました。
「年ちゃん、きょうは、ラジオで、ハーモニカの上手な方がなさるから、よくおききなさいね。」と、お姉さんが、いわれました。
「僕、きくよ。」
 やがて、その時間になると、年ちゃんは、上衣のかくしから、よごれたハンカチを出して、自分のハーモニカを拭いてちゃんとラジオの前にすわりました。みんなは、そのまじめなようすがおかしいので、くすくすと笑いました。
 けれど、年ちゃんだけは、真剣でした。そのうち、ラジオのハーモニカが、はじまりました。名人だけあって、それはうまいもので、ピアノの音も出れば、バイオリンの音も出たのであります。
 年ちゃんは、はじめは、それに合わせるつもりでしたが、たちまち、その元気はどこへやら消えて、し…

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